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小細胞肺がん、新規治療薬候補として「IGF1R阻害剤」を同定-慶大

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2025年05月15日 AM09:20

小細胞肺がん治療成績向上に向けた病気の原因解明と、新規治療法開発が急務

慶應義塾大学は5月1日、33人の小細胞肺がん患者から「」を樹立し、一部の小細胞肺がん(非神経内分泌タイプ)がIGF-1と呼ばれる増殖因子に強く依存して増殖していること、IGF-1の受容体であるIGF1Rに対する阻害剤が新しい治療薬の一つとして有効である可能性を見出したと発表した。この研究は、同大医学部内科学(呼吸器)教室の安田浩之准教授、同大学院医学研究科の福島貴大氏(大学院生)、同医化学教室の佐藤俊朗教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Cancer」電子版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

小細胞肺がんは肺がん全体の約15%を占める病気であり、日本でも年間2万人程度の新規患者が発生している。小細胞肺がんの発症には喫煙が深くかかわっていることが知られている。また、小細胞肺がんは進行が早く遠隔転移も起こしやすいことから、手術によって治療できるケースはまれであり、抗がん剤による化学療法が治療の主役となっている。

小細胞肺がんに有効な抗がん剤として、シスプラチンやエトポシドといった従来からの抗がん剤がある。しかし治療成績は十分ではない。また、最近では免疫力を活かしてがん細胞を攻撃する免疫チェックポイント阻害薬が使用できるようになったが、それらを用いても長期の病状コントロールは困難で、手術のできない小細胞肺がん患者の5年生存率は10%未満にとどまっている。このようなことから、小細胞肺がん患者の治療成績向上に向けたさらなる病気の原因解明と、新たな治療法開発が急務となっている。

従来の小細胞肺がん研究では、がん細胞株やマウスモデルを用いた研究が先行して行われてきた。しかし、これらの研究モデルでは実際の臨床で見られる多種類のがんの特徴を十分に反映することができず、疾患原因の理解や新規治療法開発を効率的に進めることが困難な状況であった。近年、オルガノイド培養技術が開発され、患者由来のがんオルガノイドが病気の原因や有効な治療法を知るためにとても効率的なツールであることが、多くの種類のがんで報告されてきている。

33例の小細胞肺がん患者組織から、40種類の小細胞肺がんオルガノイドを樹立

研究グループは、小細胞肺がん患者の多様な検体から効率的に小細胞肺がんオルガノイドを樹立する方法を開発した。

最終的に33人の患者から書面による研究への同意をもらい、40種類からなる小細胞肺がんオルガノイドライブラリーを構築した。これにより今後、小細胞肺がんの病気の原因解明や治療法開発を行う上で効率的な研究リソースを構築した。

構築したライブラリーが臨床における多様性を維持していることを確認

最近の研究で、小細胞肺がんがASCL1、NEUROD1、POU2F3、YAP1という転写因子の発現に基づいて4つのグループに分類できることが報告されている。

研究グループが構築したオルガノイドライブラリーに対して遺伝子発現情報を詳細に解析した結果、構築したライブラリーにもこれら4つのグループが存在することが確認され、同ライブラリーが臨床における多様性を維持したライブラリーであることが確認された。

小細胞肺がんオルガノイドが「」に依存して増殖していることを発見

一般に、がんではない正常の細胞は、増えるためのスイッチを押す「増殖因子」の刺激によって増殖する。一方、がん細胞は遺伝子の異常によって増殖のスイッチが押され続けている状態になっており、増殖し続けることが問題となっている。こうしたがん細胞であっても、遺伝子の異常に加えていくつかの増殖因子がないと増えないことがある。

研究グループは、樹立した40種類のオルガノイドに対してさまざまな増殖因子を添加し、オルガノイドの増殖能を評価した。その中で、非神経内分泌タイプ(POU2F3、YAP1)の小細胞肺がんオルガノイドが、IGF-1(インスリン様増殖因子)という増殖因子に高度に依存して増殖していることを初めて突き止めた。つまり、非神経内分泌タイプ小細胞肺がんが、IGF-1なしでは増殖できないことを世界で初めて明らかにした。

非神経内分泌タイプの小細胞肺がんに対してIGF1R阻害剤が有効であることを発見

非神経内分泌タイプの小細胞肺がんオルガノイドがIGF-1とその受容体であるIGF1R経路の活性化なしでは増殖できないという上記の知見から、研究グループは「非神経内分泌タイプ小細胞肺がんに対して、既存のIGF1R阻害剤が有効であるのではないか」と仮説を立て、検証実験を行った。具体的には、シャーレの中にIGF1R阻害剤を添加することで、非神経内分泌タイプ小細胞肺がんオルガノイドの増殖が低下するかを検証するとともに、マウスを使った動物モデルで非神経内分泌タイプ小細胞肺がんオルガノイドを移植し、マウス体内で腫瘍を形成させた後にIGF1R阻害剤を投与し、腫瘍形成スピードが低下するか検証する実験を行った。

その結果、IGF1R阻害剤によってシャーレの中のオルガノイドの増殖もマウス体内での腫瘍形成スピードも著しく低下することが判明した。これらのことから、非神経内分泌タイプの小細胞肺がんに対する治療薬としてIGF1R阻害剤が有効であるという知見を得た。

小細胞肺がん領域における個別化医療開発につながることに期待

今回の研究により、難治性がんの代表の一つである小細胞肺がんの病気の病態解明を行うとともに、小細胞肺がんの一部に有効な治療薬となる可能性が見出された。現在まで、小細胞肺がん領域では有効な治療薬が限られ、治療成績の向上が十分には認められていない。同研究によって「非神経内分泌タイプの小細胞肺がんであることを検査した上で、IGF1R阻害剤を使用する」といった、小細胞肺がん領域における個別化医療開発につながることが期待できる。

「本研究で構築した小細胞肺がんオルガノイドライブラリーは、本研究のみならず、世界中の多くの研究者にとって強力な研究リソースであり、これを用いることで小細胞肺がんの原因解明、治療薬開発スピードを飛躍的に向上させることが期待できる」と、研究グループは述べている。

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