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レム睡眠不足が毛細血管の血流を妨げ、認知症を引き起こす可能性-筑波大ほか

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2021年08月31日 AM10:55

レム睡眠中の脳の血流動態観測は不可能だった

筑波大学は8月25日、レム睡眠中に、大脳皮質の毛細血管への赤血球の流入量が大幅に増加していることが判明したと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)および京都大学大学院医学研究科の林 悠教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

哺乳類の睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠から構成される。これまでの研究から、ノンレム睡眠中に成長ホルモンの分泌が上昇し、逆にストレスホルモンの分泌が抑えられるなど、ノンレム睡眠が作り出すホルモン環境が身体の回復に寄与することが示唆されていたが、レム睡眠と心身の健康維持との関係はわかっていなかった。しかし近年、レム睡眠時間の割合が少ない成人は、アルツハイマー病などの認知症発症リスクや死亡リスクが高いという報告が相次いだことから、レム睡眠が認知症発症に何らかの重要な役割を担うことが予想されていた。そこで研究グループは今回、睡眠中のマウスの脳の血流に着目。レム睡眠中の脳の状態の解明を試みた。

脳の血流は心拍出量の15%という高い割合を占め、神経細胞に酸素や栄養を届けるとともに、不要な老廃物を回収する物質交換の役割を担っている。脳の血流の失調は、アルツハイマー病などを含む神経変性疾患の進行と関わっていると言われている。しかし、睡眠中の脳の血流動態を解明するために、さまざまなアプローチがとられているものの、レム睡眠中の大脳皮質の血流の変動に関しては、研究方法によって結論が異なっている上、いずれの方法でも、実際の物質交換の場である個々の毛細血管の血流を観測することはできなかった。

睡眠中のマウス脳で毛細血管中の赤血球の流れを直接観測することに成功

研究では、組織深部の観察ができる二光子励起顕微鏡を利用することで、世界で初めて睡眠中の動物の脳における毛細血管中の赤血球の流れを直接観測することに成功。同手法でマウスの大脳皮質のさまざまな領野を観察したところ、いずれの領野においても、毛細血管へと流入する赤血球数は、覚醒して活発に運動している時と深いノンレム睡眠中には差がない一方で、レム睡眠中は2倍近くと、大幅に上昇することが判明した。

このことは、レム睡眠中は脳の毛細血管の血流が活発になっていることを意味しており、大脳皮質の神経細胞は、レム睡眠中に活発に物質交換を行っていることが示唆された。成人においてレム睡眠の割合が少ないと、このような活発な物質交換が行われず、脳の機能低下や老化が進み、認知症のリスクが高まるものと考えられる。

レム睡眠中の毛細血管の血流上昇には「アデノシン受容体」が重要

また、このようなレム睡眠中の毛細血管の血流上昇には、カフェインの標的物質として知られるアデノシン受容体が重要であることも明らかになった。アデノシン受容体の一つである化合物A2aRを遺伝的に欠損したマウスでは、覚醒時やノンレム睡眠中の大脳皮質毛細血管の血流には変化がみられなかった一方で、レム睡眠中には血流の上昇はほとんど起こらなかったとしている。

レム睡眠時間の割合と脳の老化や認知機能低下との因果関係の解明を目指す

今回の研究成果により、レム睡眠中に脳の毛細血管の血流が上昇することで、栄養供給や老廃物除去などの物質交換が活性化している可能性が示唆された。レム睡眠の割合が減少すると、認知症発症リスクや死亡リスクが上昇するのも、こうした物質交換が正常に起こらず、脳細胞の機能低下や老廃物の蓄積が起こるためであると考えられることから、今後、レム睡眠時間の割合と脳の老化や認知機能の低下との因果関係を解明していく予定だとしている。

また、レム睡眠の割合を効率的に増やす睡眠薬や行動療法の開発による脳の機能低下や認知症の予防、さらに、アデノシン受容体を標的とする、脳の栄養供給や老廃物除去などの物質交換を人為的に活性化して脳機能を高める新たな認知症の治療法開発につながることが期待される。

「アデノシン受容体の働きを阻害する物質として知られるカフェインについて、睡眠中の脳での物質交換に及ぼす影響を明らかにすることも、これらの研究を進める上で重要だと考えられる」と、研究グループは述べている。

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