干渉低周波電気刺激がインナーマッスルに与える影響は?
金沢大学は7月3日、干渉低周波という独自の電気刺激方法を用いて、深層筋である腹横筋や腸腰筋を刺激することに成功したと発表した。この研究は、同大理工研究域フロンティア工学系の西川裕一准教授、同大附属病院整形外科の中瀬順介講師、同リハビリテーション部の仙石拓也理学療法士、同大医薬保健研究域医学系の絹谷清剛教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Applied Physiology」オンライン版に掲載されている。

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超高齢化を迎える日本では、加齢に伴う運動機能の低下や転倒リスクの増加が大きな社会問題となっている。特に、立位保持や歩行、姿勢維持に関与する体幹や骨盤周囲の「深層筋(インナーマッスル)」の萎縮は、要介護状態への移行や生活の質(QOL)の低下に直結する重要な因子とされている。しかし、これらの深層筋は随意的な筋収縮では十分に働きにくく、高齢者におけるトレーニングの有効性が低いことが問題視されてきた。従来、筋力増強などを目的に用いられる筋電気刺激(Electrical muscle stimulation、EMS)も、主に表層筋への刺激にとどまり、深層筋への効果は限定的だった。
一方、干渉波は中周波領域を用いた電気刺激法であり、皮膚抵抗が少なく、深部まで電流を到達させやすい特性を持つ。これまでは主に疼痛緩和に用いられてきたが、周波数と波形を適切に制御することで、筋収縮にも応用可能であることが示唆されている。
研究グループは今回、この干渉波を低周波帯(20Hz程度)の筋刺激として応用し、その効果をFDG-PETを用いて客観的に可視化・定量化することを目的とした。FDG-PETは、筋肉が活動する際に消費するブドウ糖の取り込み量を画像として可視化できるため、表層・深層を問わず筋代謝を包括的に評価できる手法である。
腹部や股関節屈筋群など姿勢制御に重要な筋で表層筋と同等かそれ以上の活動亢進を確認
研究では、健康な若年男性16人を対象に、干渉低周波群と対照群(無介入)の2群に無作為に割り付けた。干渉低周波群は、電極ベルトを骨盤帯および大腿近位部に装着し、干渉低周波刺激(400Hz、420Hz、ビート周波数20Hz、最大出力28mA)を行い、刺激後の筋代謝をFDG-PETで評価した。PET画像からは、腹部・体幹・下肢を中心に15の筋群(表層筋および深層筋)を対象に標準化摂取値(SUV)を算出し、筋活動の指標とした。
その結果、干渉低周波EMSを受けたグループでは、対照群と比較して腹横筋、腸腰筋などの深層筋において有意に高いSUV値が認められた。特に、腹部や股関節屈筋群などの姿勢制御に重要な筋において、表層筋と同等あるいはそれ以上の活動亢進が確認された。これまで「EMSは深層筋に届きにくい」とされてきたが、同研究により、干渉低周波EMSが深層筋にも有効な刺激を与えることが世界で初めて科学的に実証された。
高齢者や運動困難者への新規介入法として、転倒予防や体幹機能改善などの応用に期待
今回の研究は、干渉低周波EMSが深層筋に対しても有効な刺激を提供できる可能性を、FDG-PETという定量的かつ信頼性の高い方法で実証した、基礎的かつ先駆的な研究成果と言える。同成果は、加齢や疾病によって深層筋の活動が低下した高齢者や運動困難者への新たな介入法として、転倒予防や体幹機能改善などの応用が期待される。
「今後は、高齢者や患者群を対象とした臨床応用や、筋力や運動機能への影響を評価する介入研究への発展が見込まれている」と、研究グループは述べている。
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・金沢大学 研究


