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幼少期から感染するEBV、がん発症を抑制する作用を発見-広島大ほか

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2025年07月30日 AM09:30

EBVの潜伏感染、全身性がん免疫監視を誘導する可能性

広島大学は7月7日、エプスタイン・バーウイルス(EBV)に感染した免疫細胞が、がん細胞に対する免疫効果を高め、がん発症を抑制することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科免疫学の金宇琦氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

EBVは、主にB細胞に潜伏感染するヒトヘルペスウイルスである。EBVは感染した細胞を不死化する特徴を持つウイルスであり、B細胞リンパ腫、胃がん、上咽頭がんなど、さまざまな腫瘍との関連が報告されている。EBVはほとんどの日本人が子供の頃に感染するが、免疫機能が正常な人ではEBV感染細胞ががんを惹起させることはなく、生涯にわたり安全に体内に潜伏することが知られている。それは、EBVに感染すると体の免疫監視機構が活性化され、EBVに感染した細胞の増殖を抑えるからである。特に、CD8+T細胞やナチュラルキラー(NK)細胞を中心とする免疫系が、EBV感染B細胞の増殖を抑制し、悪性リンパ腫などのがんの発症を防いでいる。

これまでの研究から、EBV感染によって誘導される免疫応答は、EBV感染細胞に対する反応にとどまらず、EBVとは無関係の腫瘍に対しても免疫監視が機能する可能性が示唆されている。この現象は「ウイルス誘導性交差防御(virus-induced crossprotection)」と呼ばれ、EBVによって活性化された免疫系が、より広範な部位で腫瘍発生を防ぐ可能性が考えられた。今回の研究では、この仮説を検証するため、EBVがコードする潜伏関連タンパク質であるLMP1およびLMP2Aに着目した。これらのタンパク質は、B細胞の主要なシグナル伝達経路を模倣する能力を持ち、がんの原因になる一方で、T細胞を強力に活性化し、がんに対する免疫を発生することが知られている。研究グループは、LMP1およびLMP2Aを一部のB細胞に発現させることで、ウイルス抗原を持たない一般的な腫瘍に対しても免疫監視が機能し、全身性に有効ながん免疫監視が誘導される可能性を検証した。

LMP1/2A発現がGC B細胞を減少させ、CD8+T細胞を増加

ヒトでは、EBVは二次リンパ組織にみられる胚中心(GC)B細胞に感染し、これらの感染細胞がリンパ腫へと進展すると考えられている。EBVがGC B細胞に感染すると、LMP1およびLMP2Aという2つのタンパク質が発現し、感染細胞は免疫監視機構によって排除される。今回の研究では、生体内でのEBV潜伏感染状態をマウスで再現するため、GC B細胞で特異的にLMP1およびLMP2Aを発現するマウス(LMP1/2A発現マウス)を作製した。ヒトのEBV感染B細胞と同様に、これらの遺伝子が発現することでGC B細胞の数が著しく減少し、同時に免疫監視に関与するCD8+エフェクターメモリーT細胞(TEM)が有意に増加した。これらの結果は、免疫系がLMP1/2Aを発現するB細胞を感知して排除し、全身的な免疫監視を担う記憶T細胞免疫が誘導されている可能性を示唆している。

ウイルスと関係のない白血病や大腸がんの発症抑制効果も確認

さらに、LMP1/2A発現マウスでは、EBV抗原とは無関係な放射線誘発性T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の発症率が低下し、生存期間が延長、約半数のマウスが白血病の発症を免れた。同様に、遺伝的に大腸がんを発症するApcMin/+マウスモデルにおいても、LMP1/2A発現マウスでは腫瘍数の減少と生存期間の有意な延長が確認された。これらの結果は、LMP1とLMP2Aの共発現によって誘導される免疫監視が、幅広い腫瘍に対する生体防御に寄与していることを示している。

EBVで活性化されたT細胞は「NKG2D」を介した経路で腫瘍を認識

また、LMP1/2A発現B細胞と共培養したT細胞では、NK細胞などの免疫細胞の表面に発現するNKG2Dや2B4共刺激分子の発現が有意に亢進することが明らかとなった。さらに、LMP1/2A発現マウス由来のCD8+T細胞は、野生型マウス由来のT細胞と比較して、MHCクラスIの発現が低下したがん細胞に対して高い細胞傷害活性を示した。この細胞傷害活性は、NKG2D受容体の働きを阻害することで大きく減弱したことから、CD8+T細胞は少なくともNKG2Dを介した経路を通じて、MHCクラスI発現が低い腫瘍細胞を認識・排除していることが示唆された。

MHCクラスI低発現腫瘍への応用など、新たながん予防・治療戦略へ

今回の研究は、LMP1/2AをB細胞に発現させることでEBVの潜伏感染状態を模倣し、幅広い腫瘍を抑制する持続的な免疫監視を誘導できる可能性を示している。その作用メカニズムとして、T細胞上のNKG2D受容体ががん細胞に発現するNKG2Dリガンドを認識する経路が、腫瘍抑制効果を示す主な要因のひとつであると考えられる。今回初めて、EBV抗原を発現するB細胞によって誘導される活性化CD8⁺T細胞は、MHCクラスIの発現が低下したがん細胞であっても効率的に見つけて排除することが可能であることが明らかとなった。「MHCクラスIの発現低下はがんの免疫逃避を引き起こし、予後不良の要因となっている。今回の研究成果は、ウイルス感染に対する免疫応答に着想を得た免疫監視機構から、新たながん予防および治療戦略の創出につながる。特に、T細胞応答を回避するMHCクラスI低発現腫瘍を標的とした治療用ワクチンや抗腫瘍免疫賦活化法の開発において、有用な知見を提供することが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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