座りすぎによる皮膚血管拡張能低下に有効な温冷刺激、生活環境でも有効かは不明
筑波大学は7月7日、長時間の座位が前腕の皮膚血管拡張能を低下させる一方、このような血管機能の変化は、周囲温度の冷却と加温の交互曝露とは関連しないことを示したと発表した。この研究は、同大体育系の藤井直人准教授、宮崎公立大学人文学部国際文化学科の田川要講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Applied Physiology」に掲載されている。

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日本人の1日の座位時間は、約7時間と世界最長だ。また、「座りすぎ」は、心血管疾患リスクを高める要因の一つである。長時間の座位は血流や血管機能に悪影響を及ぼすことが報告されており、特に皮膚の血管拡張能が低下することが懸念されている。研究グループはこれまで、皮膚温を一定に保った特別な環境下での長時間座位が皮膚血管機能に与える悪影響と、その変化が局所的な温冷刺激によって抑えられる可能性を示してきた。しかし、より現実的な生活環境においても同様の対策が有効かどうかは明らかではない。
長時間座位による皮膚血管機能の変化、恒常温度/温度変動条件で検証
そこで今回、室内温度によって、長時間座位による皮膚血管機能がどのように変化するかを検証した。今回の研究では、明らかな疾患のない大学生または大学院生の男女12人を対象とした。参加者は、無作為な順序で2つの環境条件での実験を別日に実施。1つは、室温25℃の環境下で120分間座位安静を行う「恒常温度条件」、もう1つは、空調機器を用いて、室温18℃と35℃を交互に繰り返す「温度変動条件」で、同様に120分間座位を継続した。両条件とも実験中に、前腕の皮膚温および皮膚血流量を連続的に測定した。また、実験の前後に前腕皮膚血管の拡張能および収縮能を、それぞれ動脈性および静脈性の阻血テストにより評価し、環境条件による影響を比較した。
長時間の座位で皮膚血管拡張能は低下/収縮能は向上、冷却と加温の交互曝露の影響なし
その結果、室温25℃の恒常温度条件下では、前腕の皮膚温および皮膚血流量は座位中に時間の経過とともに徐々に低下した。一方、温度変動条件では、室温18℃時に前腕の皮膚温および血流量が著しく低下し、室温35℃時には恒常温度条件と比較していずれも高値を示した。動脈性阻血テストにより引き起こされる閉塞後反応性充血の振幅は、両条件とも120分の座位後に有意に低下が認められた。静脈性阻血テストにより引き起こされる静動脈反射の振幅も、両条件とも120分の座位後に増大した。
以上のことから、長時間の座位は、動脈性阻血テストで評価される前腕皮膚の血管拡張能を低下させるとともに、静脈性阻血テストで評価される前腕皮膚の血管収縮能を向上させることが示された。しかし、これらの反応は、室内温度の冷却と加温の交互曝露によって影響を受けることはなかった。
座位による皮膚血管拡張能の低下抑制、温度低下では不十分な可能性
今回の研究結果より、室内温度の変動による皮膚温の変化は限定的であることが示された。特に、室温を18℃まで下げた場合でも、前腕の皮膚温の低下は小さく、座位による皮膚血管拡張能の低下を抑制するには周囲の温度を下げるだけでは不十分である可能性がある。そのため今後は、水への浸漬や冷却ジェル・スプレーの使用などにより皮膚温を大きく低下させた場合に、座位によって引き起こされる皮膚血管拡張能の低下を効果的に防げるかどうかを検証することが必要である。さらに、長時間の座位が引き起こす皮膚血管拡張能の低下および収縮能の増大に関わる生理的メカニズムの解明についても取り組む予定だ、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース


