放射線従事者の水晶体被ばく、従来の鉛防護眼鏡は遮蔽率・作業性に課題
東北大学は7月1日、放射線白内障リスクを低減するヘッドギア型放射線防護具を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科放射線検査学分野の藤沢昌輝大学院生、芳賀喜裕非常勤講師および千田浩一教授(災害放射線医学分野)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Radiation Research」のオンライン版に掲載されている。

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X線透視撮影下において、患者近傍での手技に携わる放射線従事者は眼に被ばくすることによって放射線白内障などの障害が発生するリスクがある。近年の知見から、放射線白内障は従来考えられていたよりも低い線量で発症することが明らかになっている。このため、国際放射線防護委員会(ICRP)は、2011年に水晶体等価線量限度を従来の150mSv/年から20mSv/年(100mSv/5年)へと大幅に引き下げる声明を発表し、2012年にはICRP勧告を発出した。
日本では、2021年にICRP勧告を採り入れた新法令が施行されたが、新しい水晶体等価線量限度を超過する恐れがあるため、特例的に経過措置が設けられている。また、実際に線量超過例も報告されており、X線透視撮影下での手技に携わる放射線医療従事者の水晶体被ばく線量の低減が大きな課題となっている。
水晶体被ばく防護具として鉛防護眼鏡があるが、その遮蔽率は多くの場合50%程度であり、防護効果は十分ではなかった。さらに、鉛防護眼鏡は手技中に曇ったり、重さのため長時間の手技に支障を来したりする場合もあり、新しい水晶体被ばく防護具の開発が望まれていた。
従来型の難点を克服したヘッドギア型の放射線防護具を開発
そこで今回の研究では、X線透視撮影下での手技に携わる放射線医療従事者用の新しいヘッドギア型放射線防護具を開発した。この防護具は、視野の妨げにならず、かつヘッドギアを用いることで重量を感じさせずに従事者の頭部にしっかりと固定できるようになっている。
X線透視下での手技に携わる放射線医療従事者は、被ばくの原因となる散乱X線の発生源に近い従事者の左側の線量が一般に高くなり、そのため右眼よりも左眼の被ばくが高線量になることが知られている。今回開発した防護具は、頭部左側に含鉛のフェイスシールドを備えており、水晶体を含め、透視下手技従事者の左側頭部の被ばく防護が可能だ。
左眼水晶体の線量遮蔽率80%以上、従来型より高い効果を確認
防護具の遮蔽能力について、X線透視下での気管支鏡手技を再現した人体模型を用いた実験で検証した。その結果、左眼の水晶体線量の遮蔽率は80%以上であり、鉛防護眼鏡よりも高い遮蔽効果が期待できることが判明した。
また、同防護具は右側の頭部の被ばく線量が多い場合には、含鉛のフェイスシールドを右側頭部に配置することもできるようにデザインされている。これにより、X線透視撮影下手技従事者の放射線白内障の発生リスク低減に大きく役立つことが期待される。
放射線医療全体の安全性向上に期待
今回開発した防護具は、従来の鉛防護眼鏡に代わる新たな選択肢として、眼の水晶体への放射線被ばくを効果的に低減できる可能性が示された。これにより、放射線白内障の予防につながり、医師の職業被ばくによる長期的な健康リスクの軽減や、安全で持続可能な労働環境の実現が期待される。
「本防護具の商品化と普及によって、従来の放射線防護具が抱える課題を克服した実用的な代替手段として、幅広い医療現場への導入が見込まれる。今後、血管内治療をはじめとする他のX線透視手技への応用も視野に入れており、放射線医療全体の安全性向上への波及効果も期待される」と、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース