ステロイドだけではなく、アレルギー疾患そのものが骨量に関係?
佐賀大学は9月9日、喘息モデルマウスは、健常マウスと比べて骨量が少ないことを発見したと発表した。この研究は、同大医学部のWeiqi Gao研究員、城戸瑞穂教授、熊本大学の福田孝一教授、長崎大学の筑波隆幸教授、門脇知子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
骨粗鬆症による骨折は、健康寿命を大きく損なうことからその抑止は社会の課題である。また、日本人の2人に1人はなんらかのアレルギーを持っているとの調査結果があるほど、アレルギー疾患もまた私たちにとって身近な病気である。喘息やアトピー性皮膚炎を持つ患者は骨が減少しやすいことは以前からよく知られている。これは治療のために用いるステロイド薬が骨を弱めると理解されてきた。研究グループは、アレルギー疾患そのものが骨の量に関与すると仮説を立て、研究を進めた。
喘息モデルマウスは骨量が少なく、骨減少に力センサー「Piezoチャネル」が関与
今回の研究では、喘息マウス(実験的に喘息を起こしたマウス)の大腿骨や脛骨を健常マウスと比較した。結果、喘息マウスの骨では、骨が成長する部分の骨梁が少なく、破骨細胞(骨を吸収する細胞)が多く、骨芽細胞(骨を作る細胞)が減少していることが判明した。
力が加わると骨が作られることから、研究チームは次に、メカノセンサー(力センサー)であるPiezoチャネルの量を比較した。その結果、喘息マウスの骨ではPiezoチャネルの発現量が低下していることがわかった。Piezo1、Piezo2は骨芽細胞に強く発現しており、超解像レーザー顕微鏡と電子顕微鏡で観察したところ、Piezo1は細胞膜表面と小胞体膜に多く存在し、Piezo2は細胞膜表面とゴルジ装置の膜に存在していることが確認された。
さらに、喘息マウスの骨芽細胞では、Piezo1をもつ小胞体とPiezo2をもつゴルジ装置が乏しくなっていることも判明した。そこで、喘息による骨量の減少を抑制するため、Piezo1の活性化剤であるYoda1を喘息マウスに投与する実験を行った。結果、喘息マウスで起こる骨量の減少が抑えられた。また、Piezo2遺伝子の働きが抑制されたマウスでは、喘息による骨の減少がさらにひどく起こることがわかった。
これらの結果から、喘息マウスで起こる骨量の減少に、メカノセンサーであるPiezo1とPiezo2が関与することが明らかとなった。
アレルギー炎症の管理により骨の健康を守れる可能性
骨が十分な質と量そして強さを保つことは、自立して健康に歳を重ねていく上でとても重要である。アレルギー疾患そのものが将来の骨折のリスクを高める可能性を理解した上で、アレルギー炎症を適切に管理することは、骨の健康を維持する上でも重要であると考えられる。Piezoチャネルはアレルギー炎症に伴う骨減少への治療の標的として期待される。
「現在の骨粗鬆症の治療薬は、破骨細胞の抑制や骨芽細胞活性化の効果は高いものの、骨を十分に獲得するまでには至っていない。これは、骨量が減る仕組みに不明な点が多く残されているからだと考えられる。本研究の成果が、アレルギー疾患に伴う骨量減少への新たな予防戦略やメカノセンサーを標的とした治療薬の開発へとつながる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・佐賀大学 プレスリリース


