ヘルペスウイルス治療、新しいアプローチが求められている
広島大学は9月9日、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の増殖を抑える方法を新たに発見したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科、東京大学薬学部、東京薬科大学、アメニス・バイオサイエンス社の研究グループによるもの。研究成果は、「Antiviral Research」に掲載されている。

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HSV-1は、世界人口の50~90%が感染しているとされる極めてありふれたウイルスである。普段は神経細胞の奥に潜伏しており無症状だが、ストレスや疲労、発熱や免疫力低下などのさまざまなきっかけで再び活動をはじめ、症状が現れる。具体的には、口唇ヘルペスやヘルペス性角膜炎、ヘルペス脳炎などを引き起こす。
このウイルスに対する既存の治療薬はウイルス自体の働きを直接阻害するが、その仕組み上、ウイルスが治療薬に対して耐性を獲得するという問題があった。そのため、従来の手法とは異なる新たな治療法の開発が求められていた。
宿主側の酵素「Pin1」阻害によりHSV-1の増殖を顕著に抑制
研究グループは、新しい治療法の開発に向けてヒトの細胞が持つ酵素の一種である「Pin1」に着目した。ウイルスは自分だけで増殖することはできず、ヒトの細胞の仕組みを借りることで増殖する。このとき、ウイルスの増殖には「Pin1」が必須であることが知られている。そこで、「Pin1」をつくりだす遺伝子をノックダウンし、細胞内の「Pin1」を減少させたところ、ウイルスの増殖を大きく抑えることに成功し、以下の成果が得られた。
1)Pin1遺伝子のノックダウンにより、HSV-1の増殖と主要構造タンパク質VP5の発現が顕著に低下した。
2)Pin1阻害剤である「H-77」は低濃度(EC50=0.75μM)でHSV-1増殖を抑制し、細胞毒性はほとんど認められなかった。
3)新たに4つの化合物(H-958、H-1134、H-1209、H-1211)で強い増殖抑制効果を見出した。特に、H-958とH-1134はウイルスDNA放出をほぼ完全に阻止した。
4)ウエスタンブロット解析で、HSV-1の超初期タンパク質ICP0および後期タンパク質gCやVP5の著しい発現低下を認めた。
5)免疫蛍光・電子顕微鏡観察において、阻害剤処理した細胞では核ラミナが厚く安定化し、ウイルスのヌクレオカプシドが核内に留まり核外へ輸送されないことを確認した。
幅広いウイルスに有効な治療戦略の開発に期待
今回の研究によって、Pin1を阻害することで、HSV-1の増殖を強力に抑制できることが明らかになった。この成果は、宿主因子を標的とすることで薬剤耐性化を回避し、ヘルペスウイルスのみならず多様なウイルスに有効な新しい抗ウイルス戦略の開発につながると期待される。
「すでにPin1阻害剤が、新型コロナウイルスの複製を効果的に阻害することが明らかになっている。今後は、化合物の最適化や安全性評価、動物モデルでの有効性試験を経て、臨床応用を目指す」と、研究グループは述べている。
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