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新規Ⅰ型インターフェロン異常症を発見、PSMB9遺伝子のヘテロミスセンス変異-名大

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2021年04月23日 AM11:45

JAK-STATシグナル経路が過剰活性化の「

名古屋大学は4月21日、PSMB9遺伝子のde novoヘテロミスセンス変異による新規Ⅰ型インターフェロン異常症を発見し、病態を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科小児科学の高橋義行教授、同医学部附属病院小児科の村松秀城講師、川島希助教、片岡伸介病院助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」の電子版に掲載されている。


画像はリリースより

Ⅰ型インターフェロン異常症は、プロテアソーム分解経路や細胞質RNA/DNA感知経路に関連する遺伝子の変異によって引き起こされる、最近確立された自己炎症症候群のサブグループ。代表的な疾患にAicardi–Goutières syndrome(AGS)、STING-associated vasculopathy with onset in infancy(SAVI)、Chronic atypical neutrophilic dermatosis with lipodystrophy and elevated temperature(CANDLE)などがある。多くのⅠ型インターフェロン異常症に共通する臨床所見として、両側基底核石灰化、凍瘡様皮疹、肝機能障害などがある。さらに、各疾患に特徴的な所見として、AGSにおける早期発症型脳症、SAVIにおける肺高血圧などが知られている。Ⅰ型インターフェロン異常症ではインターフェロンαの関与するJAK-STATシグナル経路が過剰活性化されており、in vitroの実験や症例報告において、JAK阻害薬の有効性が報告されていた。

患者と両親の全エクソームシーケンス実施、 p.G156D変異を発見

今回、研究グループは、生後1か月で発熱、両側基底核石灰化、凍瘡様皮疹、肝機能障害、肺高血圧を呈し、血清および髄液中インターフェロンα値の上昇から、Ⅰ型インターフェロン異常症と診断された患者および両親に対して、原因遺伝子検索のため全エクソームシークエンスを行った。患者には既報告の原因遺伝子変異は認められなかったものの、免疫プロテアソームを構成するβ1iサブユニットをコードするPSMB9遺伝子にde novoヘテロミスセンス変異(p.G156D)を認めた。

患者に見出されたPSMB9 p.G156D遺伝子変異が疾患の原因となっていることを調べるために、患者由来リンパ芽球様細胞株(lymphoblastoid cell line; LCL)と健常者である両親由来のLCLを用いて機能解析を実施。その結果、患者由来LCLでは有意にプロテアソーム機能が低下しており、さらに父由来LCLにPSMB9 p.G156Dを過剰発現させたところ、患者由来LCLと同様にプロテアソーム機能が有意に低下することが明らかになった。

PSMB9タンパク質のユビキチン化促進で免疫プロテアソーム分解

次に、抗PSMB9抗体および抗ユビキチン抗体を用いて免疫ブロットおよび免疫沈降を行ったところ、患者由来LCLでは健常者由来LCLと比較して、PSMB9タンパク質のユビキチン化が亢進していた。この結果から、患者においてはPSMB9タンパク質のユビキチン化が促進されることで、免疫プロテアソームの分解を来していることが示唆された。

また、患者におけるインターフェロンαの上昇とJAK-STATシグナル経路の関係について明らかにするため、リン酸化STAT1の免疫ブロットを実施。インターフェロン刺激を外部から加えた後に連続して測定すると、健常者由来LCLにおいてはリン酸化STAT1レベルが一時的に上昇後に定常状態まで戻るのに対して、患者由来LCLにおいてはリン酸化STAT1レベルの上昇が持続していた。さらに、外部インターフェロン刺激状況下の患者由来LCLに対してJAK阻害薬を加えることで、STAT1のリン酸化が抑制されることも確認された。これらの機能解析の結果から、PSMB9 p.G156D変異タンパク質がプロテアソームの分解を促進し、正常PSMB9タンパク質の機能を抑制していると示唆され、今回の症例はPSMB9 p.G156D遺伝子変異による新規のⅠ型インターフェロン異常症であると考えられた。

+造血幹細胞移植が有効の可能性

患者の臨床経過としては、体外式膜型人工肺()による管理が必要な重症肺高血圧を合併していたが、JAK阻害薬であるトファシチニブの投与により、病勢を反映すると考えられる血清インターフェロンαは低下し、ECMOおよび人工呼吸管理から離脱することに成功した。その後、生後7か月時において、根治目的に臍帯血移植が行われ、トファシチニブの投与を中止できた。現在、移植後2年以上が経過しているが、Ⅰ型インターフェロン異常症の再燃は認めていない。この経過から、PSMB9 p.G156D変異による重症Ⅰ型インターフェロン異常症に対して、JAK阻害薬および造血幹細胞移植の治療が有効である可能性が示唆された。

今回の研究により、「肺高血圧を伴うⅠ型インターフェロン異常症ではPSMB9遺伝子変異が原因となる可能性があること」と、「PSMB9 p.G156D変異によるⅠ型インターフェロン異常症では、JAK阻害薬が有効である可能性があること」が明らかになった。研究グループは、「今後、JAK阻害薬の治療適応の拡大を目指して、Ⅰ型インターフェロン異常症患者に対する臨床試験の実施が期待される」と、述べている。

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