味細胞の化学シナプス、味情報の伝達にどう関与するか？

岡山大学は7月2日、味細胞のシナプス不全により酸味が異常になることを発見したと発表した。この研究は、同大学術研究院医歯薬学域（歯）口腔生理学分野の堀江謙吾助教、吉田竜介教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Physiology」に掲載されている。

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味覚の味の質には、5つの基本味（甘味、うま味、塩味、苦味、酸味）があるとされている。これらの味を感じる細胞（味細胞）は舌や軟口蓋、咽頭部などに存在し、口の中の味物質（化学物質）を検知し、味の情報を神経へと伝達している。これまでの研究により、一般的に神経間の情報伝達の場となる化学シナプスの構造は一部の味細胞にだけ見られることが明らかになっていたが、実際に味細胞の化学シナプスが味情報の伝達にどのように関与するのかは明らかとなっていなかった。

SNAP25欠失マウス、酸味に対する応答が減少し、酸味受容細胞の維持に異常

今回の研究では、味細胞で特異的にシナプス関連遺伝子を欠損させたマウスを作成し、味細胞におけるシナプスの機能的役割について調べた。化学シナプスにおける神経伝達物質の放出に関わるタンパク質にはさまざまあるが、味細胞での発現が明らかとなっているのはSNAP25（Synaptosomal-associated protein, 25kDa）である。研究グループは、味細胞で特異的にSNAP25を欠損させたマウス（味細胞SNAP25欠失マウス）を作成し、各種味刺激に対するマウスの応答を調べた。結果、味細胞SNAP25欠失マウスは、クエン酸、酢酸、HClなど酸味の刺激に対する神経応答が消失したが、ショ糖（甘味）、グルタミン酸ナトリウム（うま味）、NaCl（塩味）、キニーネ（苦味）に対する神経応答は通常マウスと変わらなかった。また、各種味溶液に対する行動応答を調べたところ、味細胞SNAP25欠損マウスは酸味に対する忌避応答が減弱していた。さらに、味細胞SNAP25欠損マウスの味蕾組織を調べたところ、酸味受容細胞の数の減少が見られ、酸味受容細胞の維持に異常をきたしているためだとわかった。

味覚の情報処理には複数の神経メカニズムが関与

味覚障害には、特定の味だけ感じにくくなる障害（解離性味覚障害）もある。今回の研究は、味細胞から味神経への情報伝達機構が複数存在することを明らかとし、味細胞のシナプス異常が酸味特異的味覚障害（sour ageusia）の要因のひとつとなりうることを示した。「今回作成したマウスを応用し、各種神経疾患（パーキンソン病など）のモデルマウスの作成などに展開できる」と、研究グループは述べている。（QLifePro編集部）