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オレキシンが関与する新たな恐怖調節経路を発見-筑波大ら

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2017年11月24日 PM01:00

PTSDを代表とする「汎化」レベルの調節

筑波大学は11月20日、睡眠覚醒を制御する脳内物質オレキシンが、心的外傷後ストレス障害()などで見られる「汎化」と呼ばれる現象においても重要な役割を果たしていることを発見したと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の征矢晋吾助教、櫻井武教授らの研究グループと、、理化学研究所脳科学総合研究センター、ルール大学ボーフム、新潟大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。

動物は恐怖を感じたとき、無意識のうちにその環境、周囲にあったもの、音、匂いなどを恐怖と結び付けて記憶し、後に同じ状況に陥ったり、同じ感覚を感じたりすると恐怖を覚え、行動や自律神経系に変化が現れる。これは、危険を示唆する状況を避けて生存確率を高めるための合目的的な反応だが、ときに反応が強く起こったり、似たものや関連するものでも恐怖を惹起することがある。

これは「汎化」と呼ばれる現象で、より柔軟に環境に対応して危険を回避する上で必要な機能だが、適切なレベルに制御されないと、過剰応答が起こる。この状態の代表例がPTSDだ。これまでの研究では、汎化のレベルがどの物質によってどのように調節されているのか、ほとんどわかっていなかった。

オレキシンとその受容体の結合でNAニューロンが興奮

研究グループは、恐怖や危険を感じる状況で興奮するオレキシンニューロンに着目。特定の神経細胞を任意のタイミングで操作できる遺伝子改変マウスを用いて研究を行った。その結果、オレキシンが脳幹の青斑核という部位でノルアドレナリンを作り出す神経細胞群(NAニューロン)を刺激し、環境に対して感じる恐怖に関連した行動を調節していることを発見。恐怖記憶は、脳の深部に存在する扁桃体という部位に記憶されているが、オレキシンによる刺激をうけたNAニューロンは、扁桃体の外側部分に働きかけ、あらかじめ成立していた恐怖記憶を汎化させ、恐怖の応答を強めることが明らかになったという。


画像はリリースより

さらに、特定の波長の光を当てて神経細胞を操作する光遺伝学を用いて、オレキシンから青斑核への信号や、NAニューロンから扁桃体への信号を抑制すると、本来なら恐怖を感じるべき状況でも恐怖を感じなくなったという。逆にこれらの経路を人工的に興奮させると汎化が起こり、恐怖を感じる必要がない状況であっても、その環境に恐怖を感じたときと似た要素があれば、強い恐怖反応を示すようになった。ただし、環境に恐怖を示唆する要素が何もなければ、同じ経路を興奮させても何も起こらなかった。

これらの結果から、オレキシンはこれらの経路を適切なレベルに調節し、恐怖応答の強弱を制御していることが判明。さらにオレキシンは、オレキシン1型受容体(OX1R)に結合することで、NAニューロンを興奮させていたこともわかったという。

今回の研究により、オレキシンがOX1Rと結合することで恐怖のレベルを調節していることが明らかとなり、オレキシンのOX1Rへの結合を妨げる拮抗薬を用いれば、PTSDに見られるような過剰な恐怖反応やパニック発作を抑制することができる可能性が示唆された。オレキシン受容体拮抗薬はすでに不眠症の治療薬として実用化されているが、今回発見された新たな効用については、さらなる検討が必要、と研究グループは述べている。

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