PRACEの頻度と臨床的意義、宮動脈塞栓術など治療介入との関連性を検証
熊本大学は5月26日、全国43施設による多施設共同研究において、重症の分娩後異常出血に対してダイナミックCTを行った患者の約3割に「PRACE」と呼ばれる特徴的な所見が認められたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部産科婦人科学の近藤英治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。

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出産後の大量出血は、母体の生命に関わる危険な状態を引き起こす。救命のためには出血の原因を迅速かつ正確に特定し、早期に適切な治療を行うことが重要だ。これまで重症度は主に出血量に基づき判断されてきたが、通常の治療で止血が難しいタイプの出血があり、その早期識別法は確立されていなかった。
研究グループは今回、日本全国43の高度医療機関と連携し、2021年に発生した重症の分娩後異常出血352例について調査を行った。造影剤を急速に血管投与し、複数回撮影することで血管や血流の状態変化をより鮮明に捉えることができる「ダイナミックCT」検査を行うと、撮影の早期相において子宮内腔への造影剤の漏出を認めることがある。これは、子宮から動脈性の出血が生じていることを示しており、子宮収縮薬などの従来の治療では止血が難しいタイプの出血と考えられる。この分娩後異常出血の新しい所見を、近藤英治教授らは「PRACE(postpartum hemorrhage, resistance to treatment, and arterial contrast extravasation)」として提唱した。同研究では、PRACEの頻度とその臨床的意義、また子宮動脈塞栓術などの治療介入との関連性を検証した。
PRACEは出血量・輸血量多/フィブリノゲン減、子宮動脈塞栓術の実施割合86.2%
調査対象の352例のうち205例にCT検査が実施され、そのうち約3割(32.2%)にPRACEの所見が確認された。PRACEの症例では、出血量が有意に多く、血液を固める成分であるフィブリノゲンの減少も見られた。また、輸血量が多く、子宮動脈塞栓術が行われた割合は86.2%に達し、PRACE陰性群における実施率(28.6%)と比較して大きな差が認められた。さらにPRACEの所見がある場合、子宮動脈塞栓術を要するリスクが顕著に高いことが示された(オッズ比 27.7)。
分娩後異常出血に対し、CTによる出血重症度の早期見極めと迅速な治療選択が重要
今回の研究成果により、出産後の大量出血に対する管理において、CT画像診断を活用することで出血の重症度を早期に見極め、迅速な治療選択を行うことの重要性が示された。
「今後は、PRACEの識別を組み込んだ治療アルゴリズムの開発とその普及が求められる。これにより、全国の医療機関において出産後の大量出血に対する重症度の層別化が進み、迅速かつ適切な治療が選択されることで、母体の救命率のさらなる向上が期待される」と、研究グループは述べている。
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