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遺伝性疾患の「重篤さ」評価の課題判明、当事者体験の重要性示す-広島大ほか

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2025年06月09日 AM09:10

日本のPGT-M承認は医学的基準のみで判断、当事者の価値観や家庭状況は考慮されない

広島大学は5月26日、遺伝性疾患の病状の「重篤さ」を評価するにあたって、当事者の体験が与える影響を検討したと発表した。今回の研究は、同大大学院人間社会科学研究科の澤井努特定教授(上廣応用倫理学講座寄付講座教授兼務、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点連携研究者、シンガポール国立大学客員教授)、シンガポール国立大学の高橋しづこリサーチ・フェロー、広島大学共創科学基盤センター飯塚理恵特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Human Genetics」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本では、長年厳格な医学的基準によって病状の「重篤さ」が判断され、)は限られた疾患にのみ承認されてきた。一方で近年、当事者の6年間にわたる異議申し立てによって、後に「重篤」だと評価された網膜芽細胞腫のような例も存在している。網膜芽細胞腫の例が示しているのは、病状の「重篤さ」が医学的な基準によってのみではなく、当事者の価値観や家庭の状況などを考慮して判断される必要があるという事実である。

公平な医療システムを構築するためには、明確で一貫した「重篤さ」の評価基準を確立する必要がある。そのためには、病状の「重篤さ」を判断するための医学的な基準と、患者の病状を評価するためのプロセスを区別し、それぞれがどのように影響し合うかを理解することが求められる。この区別により、医療判断が公平で透明なものとなり、患者の状況に応じた適切な対応が可能になる。

PGT-M討論会で2段階アンケート、専門医説明後と患者体験共有後

今回の研究では、エリカ・クライダーマン(Erika Kleiderman)らが提唱した、この「医学的視点」と「病状を判断する際の視点」という2つの視点を活用してアンケートを実施し、当事者の疾病体験が「重篤さ」の評価に与える影響を分析した。

研究グループは、2025年1月に広島で開催したPGT-Mに関する利害関係者を交えた討論会、「当事者とともに遺伝性腫瘍とPGT-Mを考える」において、102人の参加者を対象に調査を実施し、うち78人がアンケートに回答した。

アンケートは、「第1段階:専門医がPGT-Mの医学的基準、治療の選択肢、支援体制について説明」「第2段階:遺伝性がんの疾患を持つ患者が、自身の体験を共有」の各段階で実施された。第1段階では、エリカ・クライダーマンらが提唱した「重篤さ」の核となる「医学的基準」「治療へのアクセス/利用可能性」「支援とリソースへのアクセス/利用可能性」が説明された。第2段階では、同じく核となる「個人および家族の疾病・生活体験」が共有された。アンケート回答から「重篤さ」に対する認識の変化を分析した。

患者体験を聞いた後、PGT-M評価が「社会負担軽減」から「生殖の自律支援」に変化

調査の結果、第1段階では66%の回答者が「遺伝性がんに直面した場合、PGT-Mを検討したい」と回答した。また、89%が「遺伝性疾患の診断時にPGT-Mの情報提供が必要」と回答した。

次に、第2段階では、患者の体験を聞いた後、PGT-Mを「社会的負担の軽減策」(遺伝性疾患を予防することで、将来的な医療費や福祉支援の負担を減らす方法)と捉える人が26.9%から7.7%に減少し、「個人の生殖の自律性」(子どもを持つかどうか、またその方法を選ぶ自由)を重視する人が65%から71%に増加。PGT-Mを用いた結婚・妊娠・家族計画に対する好意的な認識が、54%から71%へ増加。

PGT-Mが単なる「社会的負担の軽減策」ではなく、個人の選択や人生にかかわる「個人の自律性を高める技術」だという認識に変化したことがわかった。

回答者の多くが懸念、医学的基準重視で患者の疾病体験は過小評価

患者の体験を聞くことによる認識の変化は、エリカ・クライダーマンらの提唱した手続き的要素の1つ、「患者/家族を中心とした影響」と関連している。この変化は、当事者の生活体験を考慮した意思決定プロセスの重要性を示唆している。

多くの回答者は医学的基準が重視され、患者の疾病体験が過小評価されることに懸念を示した。具体的な文脈から切り離して、医学的基準のみによって「重篤さ」を評価することは「手続き的公平性」を欠く可能性がある。また、「重篤さ」を判断する意思決定プロセスが不透明で、患者や家族に十分に説明されないという懸念もある。

遺伝子検査に関する意思決定が公平に行われ、患者や家族の意見が十分に反映されるためには、遺伝性疾患の「重篤さ」を判断する基準を明確にし、情報提供の手順を整えることが求められる。「障がい者の権利と、生殖の自律性のバランスを調整する包括的な枠組みを構築するという課題も存在している。日本国内の文化的、歴史的背景を考慮しつつ、重篤さを評価するための公平性を確保する必要がある」と、研究グループは述べている。

 

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