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「ワクチン誤情報」が新型コロナ死亡者数に与えた影響を数理モデルで解析-東大ほか

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2025年06月04日 AM09:20

新型コロナの感染者数・ワクチンの接種率などから死亡者数を予測する数理モデルを開発

東京大学は5月22日、ワクチンに関する誤情報が新型コロナウイルス感染症のワクチン接種率、ひいては死亡者数に及ぼした影響について、数理モデルを用いた反実仮想シミュレーションによって明らかにしたと発表した。この研究は、同大国際高等研究所新世代感染症センターの古瀬祐気教授と、東北大学大学院医学系研究科の田淵貴大准教授との研究グループによるもの。研究成果は、「Vaccine」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

新型コロナウイルス感染症の流行に際して、日本を含め世界中でさまざまな誤情報が拡散した。ワクチンの有効性や安全性に関する内容も多く、これらの誤情報がワクチン忌避につながったことが多くの先行研究で報告されている。しかし、それが結果としてどの程度の影響を与えたのかは、よくわかっていなかった。

そこで研究グループは、これを明らかにするために「新型コロナウイルス感染症の感染者数・ワクチンの接種率・ワクチンの有効性・変異株の種類」から、「死亡者数」を予測する数理モデルの開発を行った。

ワクチンに関する誤情報がワクチン接種率に影響すると判明

次に、「ワクチン接種記録システム(VRS)」と「日本における新型コロナウイルス感染症問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS、2021年9~10月に約3万人を対象にオンラインで実施されたアンケート調査)」のデータを用いて、ワクチン接種率とワクチンに関する誤情報との関連を解析した。

その結果、2021年末時点での日本全体のワクチン接種率は83.4%と推定された。また、「ワクチンの有効性データは捏造されている」「政府はワクチン接種と自閉症の関連を隠蔽している」といった7つの誤情報を信じているかどうかについて調べたところ、ワクチン受容者(接種済み、および接種予定の人)のうち8.5%、ワクチン忌避者(非接種を決めた人)のうち36.6%が少なくとも1つの誤情報を信じていることがわかった。

これらのデータから、仮に誤情報を信じているワクチン受容者がワクチン忌避になってしまうと、接種率は83.4%から76.6%に低下すると計算できた(=誤情報対策の失敗)。一方で、誤情報を信じているワクチン忌避者が誤情報を信じていない人と同じだけの割合で接種するようになると、接種率は88.0%に上がると算出された(=誤情報対策の成功)。

誤情報に対してうまく対処しワクチン接種率を上げると、431人の死亡を回避可能

誤情報対応についてのこれらの想定や、あるいはワクチン導入のタイミングが現実よりも早かったり遅かったりしたとする仮定を「反実仮想シナリオ」として設定し、研究グループが開発した数理モデルに代入することで、新型コロナウイルス感染症の死亡者数の予測シミュレーションを行った。

日本における2021年の新型コロナウイルス感染症死亡者数は累計で約1万4,000人だったが、シミュレーションによると誤情報に対して現実よりもうまく対処してワクチン接種率を上げることができた場合は、431人の死亡を回避できたことがわかった。一方で、誤情報への対応が現実よりうまくいかず接種率が低下した場合、死亡者数は1,020人増えると予測された。

ワクチン導入のタイミングが死亡者数に与える影響も判明

また、ワクチン導入のタイミングについて、仮に現実よりも1か月早くワクチンを導入できた場合は2,571人の死亡を防ぐことができ、逆に、もし1か月遅れた場合はさらに4,796人が亡くなった可能性があるとわかった。さらに、導入タイミングの前倒しや遅れが1か月でなく3か月だとすると、死亡者数は前倒しの場合で7,003人の減少、遅れた場合で2万2,216人の増加になると推定された。

モデルから得た知見は、今後のワクチン接種戦略を考える際に有効

今回の研究により、日本においてワクチンに関する誤情報が新型コロナウイルス感染症の流行に及ぼした影響の程度を定量化することに成功した。開発したモデルと得られた知見は、次のパンデミックが発生した際など、今後のワクチン接種戦略を考えるのに役立つものとなる、と研究グループは述べている。

 

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