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統合失調症など初発精神病群のグルタミン酸系神経伝達異常の一端を解明-東大ら

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2017年05月26日 PM12:00

MMNのグルタミン酸系神経伝達異常と末梢血グルタミン酸濃度の相関

東京大学は5月23日、統合失調症を主とする初発精神病群で、記憶や学習に関わるN-メチル-D-アスパラギン酸()受容体機能を反映するミスマッチ陰性電位(mismatch negativity:)が有意に小さく、血漿グルタミン酸濃度が有意に高いことを見出す研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科脳神経医学専攻/東京大学医学部附属病院精神神経科の笠井清登教授と、千葉大学社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授らによるもの。研究結果は、国際的学術誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付けで掲載された。


画像はリリースより

事象関連電位のひとつであるMMNの振幅低下は、統合失調症で音に対する自動的注意を反映する脳波指標の最も有用な生物学的指標の候補のひとつであり、MMNはNMDA受容体機能を反映すると考えられている。このMMN振幅低下は早期・慢性の統合失調症で認められ、「グルタミン酸仮説」に合致する。この仮説は、NMDA受容体機能が低下することで、脳内の電気信号が過剰になることなどから、統合失調症のような精神病状態が生じるとするというもの。また、末梢血グルタミン酸濃度の上昇も統合失調症で認められている。そこで、MMNのグルタミン酸系神経伝達異常の指標として、末梢血グルタミン酸濃度との相関を調べる必要があったものの、これまでそうした研究報告は行われていなかった。

早期に末梢血グルタミン酸濃度が上昇

今回の研究には、統合失調症を主とする初発精神病患者19名(精神病群)、精神病超ハイリスク者21名(リスク群)、健常者16名(健常群)が参加。研究参加者には、イヤフォンを通じて特定の長さ(持続時間)と高さ(周波数)を有する音刺激を連続して聞いてもらい、同時に無音の映画をみて、音刺激に意識的な注意を向けないようにした。音刺激は、ごく稀に持続時間が長くなったり、周波数が高くなったりする。連続的に聞こえてくる標準音のなかで、稀に出現する逸脱音に対する脳波反応をMMNと呼び、持続時間の変化に対するMMNであるduration MMN(dMMN)、周波数の変化に対するMMNであるfrequency MMN(fMMN)を測定。グルタミン酸系アミノ酸の血漿濃度として、、グリシン、D-セリン、L-セリンを測定した。

まず、dMMN振幅は、健常群に比し、精神病群とリスク群で有意に低下。fMMN振幅は3群間で有意差はなかったという。これは、先行研究と同様だった。dMMN振幅は精神病性障害の早期から低下し、fMMN振幅は慢性期に低下する傾向があるとわかっている。

次に、血漿グルタミン酸濃度は、健常群に比し、精神病群で有意に上昇していた。先行研究では、慢性期の統合失調症で末梢血グルタミン酸濃度が上昇することはわかっていたが、今回の研究で、早期の段階でも末梢血グルタミン酸濃度が上昇することが明らかになったという。また、グルタミン、グリシン、D-セリン、L-セリンの血漿濃度は3群間で有意差はなく、先行研究と同様だった。

これらの結果から、精神病群と健常群において、血漿グルタミン酸濃度が高いほどdMMN振幅が小さいという有意な相関が世界で初めて認められた。今回の研究成果は、初発精神病の、NMDA受容体機能低下などのグルタミン酸系神経伝達の変化を示すものであり、統合失調症を主とする精神病性障害の病態解明の一助となることが期待される、と研究グループは述べている。

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