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ありふれたウイルスEBV、特定の人だけにがんを起こす仕組み解明-名古屋市大ほか

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2025年07月15日 AM09:20

世界人口の約95%が感染するEBV、なぜ一部の人にがんを引き起こすのかは不明

名古屋市立大学は6月27日、世界各地から集めたEBVの遺伝情報(ゲノム)を解析し、このウイルスががんを引き起こす新たな仕組みを解明したと発表した。今回の研究は、同大大学院医学研究科ウイルス学分野の奥野友介教授、濱田太立講師、名古屋大学大学院医学系研究科ウイルス学の木村宏教授、佐藤好隆准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

EBVは、世界人口の約95%が成人までに感染するウイルスで、感染時に風邪のような軽い症状を起こした後に、生涯にわたり体内に潜伏し続ける。潜伏感染している人の多くには害を与えないが、一部の人に対してはさまざまながんを引き起こすことが知られている。また、他のがんに関連するウイルスが起こすがんは1~数種類に限られるのに対し、EBVは20種類を超えるがんに関連する。しかし、なぜEBVがこれらの特徴を持つのかは明らかではなかった。

990株のEBVゲノム解析、タイプにより引き起こす病気が異なると判明

研究グループは、EBVががんを引き起こす仕組みを明らかにするため、世界中から収集した計990株のEBVウイルスの遺伝情報(ゲノム)を次世代シーケンサーで解析した。

ウイルスの系統解析をしたところ、EBVは地域ごとに若干異なる塩基配列を有しており、地域ごとに少し異なる進化を遂げていることがわかった。また、EBVは大きくタイプ1とタイプ2という系統に分かれるが、この2つの系統の割合が病気ごとに異なることが判明した。特に、胃がんにおいてはタイプ1がほぼ100%を占めており、B細胞が起こす病気ではタイプ2の割合が高いことが特徴的だった。すなわち、EBVの遺伝情報が違うと、起こる病気が変わることがわかった。

国内EBVの免疫標的となりうる遺伝子発見、EBVゲノム欠損と血液がんの関連も

さらに詳細に見ていくと、日本のEBVにおいて、EBNA3Bというウイルスの遺伝子に、繰り返し変異が生じていることが判明した。この結果は、ヒトがEBVを排除しようとする免疫応答においてEBNA3B遺伝子が重要な標的になっている可能性を示唆している。これは今回の遺伝子解析研究で初めて判明したことであり、培養細胞を用いた追加の実験でもこの可能性が裏付けられた。

また、研究グループは以前、がん細胞から抽出したEBVのゲノムは、最大で4割ほどの長さの領域が欠損しており、それががん化の原因となることを報告している。今回の研究では、欠損は血液のがんでは高頻度に見られるが、胃がんや上咽頭がんといった血液以外のがんではほぼ見られなかった。これは、EBVゲノムが欠損すると、血液がんを発生させやすいことを示している。言い換えると、EBVががんを起こす際に、血液がんとそれ以外のがんでは異なる仕組みを用いることがわかった。

EBVゲノムの欠損領域に存在するEBNA3B遺伝子にがん抑制機能

EBVゲノムの欠損は、株ごとに(患者ごとに)欠損する領域が異なっていたが、特に欠損が集中するウイルス遺伝子として、EBNA3B遺伝子が見つかった。がんにおいて欠損が集中するヒトの遺伝子は、がんの発生を抑える働きを有しており()、TP53遺伝子、BRCA2遺伝子などがその代表である。EBNA3B遺伝子に欠損が集中するということは、この遺伝子はがんを起こすウイルスが持つ遺伝子であるにも関わらず、がんを抑制する遺伝子であるという、少し奇妙なことを示している。

奇妙ではあるが、この観察に基づいて培養細胞で実験を行い、EBNA3B遺伝子が人のがん抑制遺伝子(特にPTEN遺伝子とRB1遺伝子)の働きを活性化することを見出した。がんを起こすウイルス自身ががん抑制遺伝子を持つ理由、あるいはがんを起こすウイルス自身が人のがん抑制遺伝子を活性化させる理由についてはいまだ不明であるが、今後の研究における興味深い研究課題と考えられる。

EBVによるがん発生の機構、新たな治療法の開発につながると期待

今回の研究成果は、大規模なウイルスゲノムの解析によって、EBVのゲノムに生じる変異ががん化の原因となることを明らかにした。この変異は非常にまれであるため、EBVが大半の人に感染しているにも関わらず、一部の人にのみがんを引き起こす理由のひとつと考えられる。また、EBVのタイプや変異は特定のがんと関連していた。言い換えると、EBVはがんを生じさせる複数の仕組みを備えており、それがこのウイルスが多くの種類のがんと関連する理由のひとつと考えられる。

「今回の研究は、EBVががんを発生させるさまざまな機構を新たに解明したものである。EBNA3Bを標的とした免疫療法は、EBVの制御に役立つ新たな治療法となる可能性がある。それ以外の発見は、すぐに治療法に結び付くものではないが、それにたどり着くための重要な基盤を構築できたものと考えている」と、研究グループは述べている。

 

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