3つの特徴的な症状を示す先天性免疫不全
広島大学は6月19日、高IgE症候群(HIES)の原因となる新しい遺伝子変異を日本で初めて発見したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科小児科学の岡田賢教授、芦原康介氏(大学院生)、防衛医科大学校小児科学の今井耕輔教授らの研究グループと米国ロックフェラー大学などとの共同研究によるもの。研究成果は、「JCI Insight」に掲載されている。

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HIESは新生児期から出現するアトピー性皮膚炎、黄色ブドウ球菌などによる反復感染症、血液中のIgE高値の3つを特徴とする先天性免疫異常症。その他、真菌(カビ)感染症などのさまざまな感染症や、頭蓋骨縫合早期癒合症、特徴的な顔貌、成人になっても残る乳歯、側弯症、易骨折性といった骨関連疾患も呈する。
HIESの原因遺伝子「IL6ST」
HIESの原因遺伝子としてSTAT3遺伝子が知られているが、近年、IL6ST遺伝子も原因遺伝子として報告されている。IL6ST遺伝子はIL-6ファミリーサイトカインのシグナル伝達に関わる受容体を構成するタンパク質GP130をコードしている。これにより、免疫制御や細胞分裂などさまざまな遺伝子発現のシグナルが伝達される。
GP130タンパク質は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインの3領域から構成される。これまでの報告によると、常染色体劣性(常染色体潜性、AR)のIL6ST遺伝子変異は主に細胞外ドメインに、常染色体優性(常染色体顕性、AD)の変異は細胞内ドメインに集中することが示されている。
さらに、報告されている全てのAD IL6ST変異は、早期終始コドンを導入する変異であり、これによって生じるGP130変異タンパク質は、強い優性阻害(ドミナントネガティブ、DN)効果を持つことが確認されている。この変異型タンパク質は細胞内へ取り込まれないため、細胞表面に異常に蓄積することも報告されている。
日本人患者で2つの新規IL6ST遺伝子変異を同定、ともに強いDN効果
今回の研究では、幼少期からの重症アトピー性皮膚炎、繰り返す感染症、血液中のIgE高値を認めた30歳代の患者2例について、全エクソーム解析を行った。その結果、それぞれでIL6ST遺伝子の新規変異である「IL6ST: c.2105delA(p.K702Sfs*7)」「IL6ST: c.2276-2285delATTCTACCGT(p.Y759Wfs*26)」を同定した。
2つの変異はGP130タンパクの細胞内ドメインに位置し、機能解析では、ともに強いDN効果およびGP130の細胞表面への蓄積が確認された。患者の末梢血細胞でも同様の異常が認められた。また、2人の患者は、いずれも父親にも類似の臨床症状が見られたことから、AD GP130異常症と診断された。
変異位置と機能・遺伝形式の関連を発見
次に、AR IL6ST変異とAD IL6ST変異の境界領域を明らかにするため、該当領域に早期終始コドンを挿入した複数の変異体を作製し、解析を行った。その結果、アミノ酸640番および641番がAD型とAR型の機能的境界にあたる可能性が示され、この境界を境にDN効果の増強およびGP130の細胞表面蓄積が顕著に見られた。
この結果から、今後新たにIL6ST変異が見つかった際には、変異位置がアミノ酸640番より上流(細胞外ドメイン側)ならAR型、下流(細胞内ドメイン側)ならAD型であると予測できる可能性が示唆された。
将来的には血液検査による診断実現の可能性も
また、GP130の細胞表面蓄積とDN効果に相関関係があることが明らかになったことから、将来的には遺伝子検査を待たずに、患者の末梢血細胞を用いた機能解析のみでAD GP130異常症を診断できる可能性もある。
今回の研究で解析を行った症例は、報告数の少ないAD GP130異常症と臨床的・分子生物学的所見の両面で一致しており、この疾患の概念確立に貢献する発見となった。「本研究の成果は、GP130異常症の迅速な診断法の確立に寄与するものであり、これにより早期診断と適切な治療介入へと繋がることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果