へき地と都市部の医療格差、国内15件の研究を分析
横浜市立大学は5月15日、日本の「へき地」と都市部における医療の質の格差について、これまでに発表された論文や報告書を網羅的に収集し、現状と課題を整理した結果を発表した。この研究は、同大大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子惇准教授、カナダ・Western大学のMaria Mathews教授や島根県・雲南市立病院の太田龍一医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Health Services Research」に掲載されている。

日本には約6,800の島々があり、人口の約9%が過疎地域に居住している。医師がいない「無医地区」もあり、地域によって医療へのアクセスに大きな差がある。こうした格差を是正するためには、まず現状を正確に把握することが必要である。今回の研究は、医療の質を評価するフレームワーク「Donabedianモデル」(医療の質を構造・過程・結果の3つの要素に分けて分析するモデル)を用いて、「へき地」と都市部で医療の質を比較しているこれまでの日本の研究を分析し現状と課題を明らかにすることを目的とした。
今回の研究では、スコーピングレビューを行い、2006年以降に発表された論文5,020件から、「へき地」と都市部の医療を比較している15件の研究を選定。医療の「構造(例:人口当たりの医師数など)」、「過程(例:心筋梗塞発症から治療開始までの時間や心不全に対するガイドラインに沿った治療実施率など)」、「結果(例:死亡率など)」の3つに分類した。
へき地は医療の質が劣る結果もあれば「医師の診療の幅が広い」など質が高い結果も
その結果、15件中9件の研究においては「へき地」は都市部に比較して医療の質が劣るという結果であったが、3件の研究では、「へき地」の方が医師の診療の幅が広いなど質が高い面も見られた。また、多くの研究が病院を対象とし、診療所などプライマリ・ケアを担う施設に関する研究は少なく、特に「結果」を調査したものはなかった。さらに、「へき地」や都市部の指標や基準は研究ごとに異なり、比較が難しいという課題も判明した。
研究推進のため、へき地/都市部で一貫した指標が必要
「へき地」と都市部のプライマリ・ケアにおける医療の質の違いに関する研究は少なく、「結果」を評価した研究はなかった。また、「へき地」や都市部の指標として広く用いられているものがないという課題も明らかになった。今後は、「へき地」と都市部の医療の質を一貫した指標で比較できるようにすること、その上でプライマリ・ケアに焦点を当てた研究を増やすことが重要である、と研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース