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アルツハイマー病感受性APOE4、シナプス障害を引き起こす機構を解明-慶大

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2023年09月05日 AM11:07

APOE4遺伝子型アストロサイトによる神経細胞への障害、詳細は未解明

慶應義塾大学は9月1日、ヒトiPS細胞由来のアストロサイトを用いて、アルツハイマー病にかかりやすい感受性遺伝子を有するアストロサイトから神経毒性を持つタンパク質が分泌され、神経細胞間のシナプスが障害されることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部生理学教室の岡野栄之教授、渡部博貴特任講師、同大大学院医学研究科博士課程の村上玲大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

高齢化社会の日本では、高齢者の4人に1人が認知症またはその予備軍とされており、この疾患にかかる莫大な経済コストが問題となっている。特に認知症の中で最も患者数の多いアルツハイマー病は、病気の発症メカニズムを基にした根本的治療薬の開発に成功しておらず、現在は対症療法に頼らざるを得ない状況である。

近年のゲノムワイド関連解析により、アルツハイマー病にかかりやすい感受性遺伝子が多く発見されている。その中でもAPOE4遺伝子型は、ヘテロ接合体で持つ人では約3.5倍、ホモ接合体で持つ人では約15倍、アルツハイマー病のかかりやすさを上昇させることから、これまで同定されている中で最大の感受性遺伝子として知られている。APOE遺伝子にはアミノ酸の変化を伴う3つの遺伝子型(APOE2、APOE3、)が存在し、中枢神経では主にアストロサイトで産生・分泌され、脳内の脂質代謝に関与している。APOE4を持つ患者脳内では、アルツハイマー病で特徴的な神経病理が拡大し、神経活動が障害されていることが報告されてきた。しかし、APOE4アストロサイトがどのように神経細胞を障害させているのか、詳細な分子機序はこれまで明らかではなかった。

作出したAPOE4、共培養した神経細胞のスパイン数を減少させる

研究グループは、ゲノム編集技術を用いて、APOE遺伝子がAPOE3遺伝子型の健常人由来iPS細胞からAPOE4遺伝子型のiPS細胞へと改変したゲノム編集株を作出した。さらに開発したiPS細胞からアストロサイトへの分化誘導法を用いることで、APOE4遺伝子型を持つヒトアストロサイトを作出した。

次に、APOE3あるいはAPOE4遺伝子型のアストロサイトを神経細胞と共に培養することで、アストロサイトの神経細胞に対する効果を検討した。神経細胞シナプスを構成しているスパインの形態を観察したところ、APOE4遺伝子型のアストロサイトと共に培養した神経細胞ではスパインの数が減少し、成熟度が低下していることがわかった。

細胞外マトリックスEDIL3が神経細胞間のシナプス障害を引き起こすと判明

スパイン形態の変化を引き起こす分子機構を明らかにするため、APOE4遺伝子型のアストロサイトで発現変化している遺伝子を解析したところ、EDIL3という細胞外マトリックスが上昇していることがわかった。さらに、EDIL3を多く含む培地で神経細胞を培養したところ、APOE4遺伝子型のアストロサイトと共に培養した時と同様なスパイン数の減少が見られた。これらの結果から、APOE4遺伝子型のアストロサイトから神経毒性を持つ細胞外マトリックスEDIL3が分泌され、神経細胞間のシナプスの障害を引き起こすことが明らかとなった。

EDIL3の蓄積、APOE4遺伝子型を持つアルツハイマー病患者で確認

興味深いことに、EDIL3に対する抗体を用いたヒト死後脳の免疫組織化学染色により、APOE4遺伝子型を持つアルツハイマー病患者では、EDIL3の顕著な蓄積が見られた。EDIL3はアルツハイマー病の神経病理のひとつである老人斑形成に関与する遺伝子としてゲノムワイド関連解析で同定されていた。したがって、これまで別々にアルツハイマー病と関与が示唆された遺伝子であるAPOE4とEDIL3の関連性が示唆された。

APOE4遺伝子型の患者に対するテーラーメイド医療につながる可能性

今回の結果から、APOE4遺伝子型を持つ患者脳では、アストロサイトから神経毒性を持つ細胞外マトリックスEDIL3が分泌され、神経細胞のスパイン構造を変化させることで、シナプス障害を引き起こすことが示された。「本研究で得られた成果を発展させ、APOE4遺伝子型を持つアルツハイマー病患者に対するテーラーメイド医療を目指した創薬が可能になると思われる」と、研究グループは述べている。

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