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進行期CKD、収縮期血圧の目標下限値110mmHg以上で腎保護効果-名大ほか

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2023年07月21日 AM11:29

CKD患者の血圧における最適な下限値は研究データが少なく不明だった

名古屋大学は7月18日、進行期の慢性腎臓病()患者の収縮期血圧の目標下限値と腎機能低下速度の関連を調査し、収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上とする診療方針は、推定糸球体濾過量()変化+1ml/min/1.73m2/年の改善に関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科腎臓内科学の倉沢史門臨床研究教育学助教(研究当時)、丸山彰一教授、筑波大学医学医療系腎臓内科学の山縣邦弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension Research」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本国内のCKDの患者数は約1480万人と推計され、成人の7人に1人が有する国民病となっており、毎年4万人を超える人が新たに透析療法を開始している。CKDを有する患者の約85%に高血圧症を合併し、高血圧は腎機能悪化や心血管病の重要なリスク因子であることから、腎機能保持や心血管病の予防のためには適切な血圧管理が不可欠である。最近の研究で、厳格な降圧により心血管病や心血管死が減ることが示されたが、一方で血圧が下がりすぎると急性腎障害(急激な腎機能の悪化)などの有害事象も増加することが知られている。

特にCKD患者は血圧の変動が大きく、血圧の最高値あるいは平均値を基準として厳格な降圧を行うと過度な血圧低下を起こしやすい上に、動脈硬化などのため血管の自動調節能が障害されていたり、血管が狭窄していたりする場合が多く、その影響を受けやすい集団といえる。そのため、血圧変動の中で、収縮期血圧の最低値にも注意を払う必要があると考えられるが、その意義や最適な下限値についてはこれまでほとんど研究されていなかった。

一般的に観察研究として「実際の血圧」とその後の腎機能悪化や心血管病などの治療成績との関連を評価するのみでは、管理目標値と実際の血圧が必ずしも一致せず、さまざまな要因の影響を排除しきれないことから、治療方針の十分な根拠にはなりづらく「血圧の管理目標値」と治療成績の関連を明らかにすることが望まれていた。通常、そのためにはランダム化比較試験が実施されるが、研究グループは、参加施設の医師の血圧の目標上限値および下限値などの診療方針に関する情報も収集している「慢性腎臓病進行例(CKD G3b~G5)の予後向上のための予後、合併症、治療に関するコホート研究」(REACH-J-CKDコホート研究)のデータを利用して、操作変数法を用いて「血圧の目標下限値に関する診療方針」と腎機能低下や心血管病との関連を評価した。

ほとんどの腎臓内科医、収縮期血圧の目標下限値100または110mmHgと回答

REACH-J-CKDコホート研究に参加した31施設の91人の腎臓内科医を対象としたCKDに関する診療方針などのアンケート結果について、収縮期血圧の目標下限値の回答を集計した。さらに、各参加施設の腎臓内科医のうち半数以上がアンケートに回答した20施設について、収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上とすると回答した医師の施設ごとの割合と、参加者の登録前4年前から登録時までのeGFRの変化や心血管病の既往との関連を評価した。

血圧の目標値に関する質問は、CKDステージ(3または4〜5)と尿タンパク質の程度および糖尿病の有無(尿タンパク質なし、軽度尿タンパク質、高度尿タンパク質、糖尿病)の組み合わせにより、8通りの想定患者について繰り返し質問され、それぞれ82〜90人から回答が得られた。ほとんどの腎臓内科医は、100mmHgまたは110mmHgを下限値とすると回答した。回答を110mmHg以上と100mmHg以下の2つに分けると、110mmHg以上と回答した医師の割合は、糖尿病のない患者では尿タンパク質なしで約36%、軽度タンパク質尿で29%、高度タンパク質尿で22%、糖尿病の患者では23%で、CKDステージ3と4〜5の間に方針の違いはほとんどなかった。

目標下限値110mmHg以上、100mmHg以下よりも腎機能の低下速度緩やか

各参加施設における「収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上とする腎臓内科医の割合」を、上記の8通りの想定患者についてそれぞれ算出した。そして、回答率が50%以上だった20施設について、その施設の登録患者1,320人に、8通りの中で該当するグループに応じてこの割合を割り当て、「目標下限値110mmHg以上とする管理の受けやすさ」を反映する操作変数と見なした。

混合効果モデルによる解析で、登録時の4年前から登録時までの4年間(1年おき、最大5つの時点での値)におけるeGFR変化は平均で-2.48ml/min/1.73m2/年だった。多変量解析で、収縮期血圧の目標下限値110mmHg以上についての操作変数は、eGFR変化の+1.05ml/min/1.73m2/年(95%信頼区間:0.33–1.77)の改善に関連した。この結果は、eGFR変化の平均値を加味すると、収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上とすることで、100mmHg以下とする場合よりも30〜40%程度腎機能の低下速度を緩やかにできることを示唆している。

75歳以上、心血管病の既往グループで特に効果大

いくつかのサブグループに分けた解析では、いずれのグループについてもこの腎保護効果は概ね一貫していたが、75歳以上のグループ、心血管病の既往のあるグループで特に効果が大きい傾向が見られた。これらのグループは、特に動脈硬化が進行しており、血圧の変動が大きく過降圧が起こりやすい上にその影響も受けやすいことが想定され、そのような患者では血圧が下がりすぎないように管理する意義が特に大きいと解釈される。

なお、これらの解析は血圧自体ではなく、血圧に関する「治療方針」と腎機能変化の関連を評価しているため、観察研究でありながら、ランダム化比較試験を行った場合に得られる結果に近い結果であることが期待できる。

実際に記録された収縮期血圧の最低値との関連も確認

今回使用した「収縮期血圧の目標下限値110mmHg以上についての操作変数」が妥当な操作変数であるかを確認するために、実際に記録された収縮期血圧の最低値とこの操作変数の関連を評価したところ、確かにこの操作変数は、より高い血圧最低値と関連していた。また、心血管病の既往とこの操作変数の関連も評価したが、心血管病の既往との間には関連が見られなかった。

収縮期血圧の目標下限値に着目した初めての報告、臨床試験での検証も望まれる

今回の研究結果から、進行期CKD患者の血圧管理において、血圧変動の中で収縮期血圧の下限値にも注意を払い、具体的には110mmHgを下限値とすることが、腎機能保持に有用であることが示唆された。特に血圧変動が大きい場合に、過降圧とならないようにやや高めの血圧管理とすることで腎機能を保持しやすくなると考えられる。収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上にする腎臓内科医は22〜36%と少数派だったため、血圧に関する診療方針を最適化することで腎予後が改善しうる患者が多くいるものと考えられる。収縮期血圧の目標下限値に着目した初めての報告であり、今後、下限値にも注意する必要性について診療ガイドラインにも反映される可能性がある。「臨床試験でこの研究結果と同様な結果が得られるか、また心不全などの有害事象が増加しないかを検証することが望まれる」と、研究グループは述べている。

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