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自己反応性T細胞の識別マーカー分子として「Nrp-1」を同定-NCNPほか

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2022年09月14日 AM10:35

細胞集団の中から自己反応性T細胞を見分ける方法はなかった

)は9月9日、種々の自己免疫疾患の病態形成において中心的な役割を果たす自己反応性ヘルパーT細胞集団の識別マーカー分子「」を発見したと発表した。この研究は、NCNP神経研究所免疫研究部の大木伸司室長、山村隆特任研究部長、ベン・レイバニー研究員らの研究グループと、北里大学医学部の有沼良幸准教授、山岡邦宏教授、東京大学大学院薬学系研究科の堀昌平教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「EMBO Molecular Medicine」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

自己免疫疾患は、免疫系が生体防御の対象であるホストの構成成分を異物と見なし、攻撃することで生じる。その際、ホストの構成成分を認識する自己反応性ヘルパーT(Th)細胞が司令塔として、病態を直接引き起こしたり、抗体を作る元となるB細胞からの自己抗体産生を促し、間接的に発症に関わる。自己抗体依存性の疾患の中でも、視神経脊髄炎(NMO)や重症筋無力症(MG)のように自己抗体の病原性が明確な疾患がある一方で、コントロールが難しく、難治である全身性ループスエリテマトーデス(SLE)の多様な自己抗体の病原性は、ほぼ不明だ。

自己免疫疾患の治療に長年使われてきたステロイドや免疫抑制剤に加え、最近では炎症性サイトカインや、B細胞を標的としたより特異性の高い治療法が開発されている。しかし、これらの方法では免疫応答が全体的に抑制されるため、生体防御機構としての免疫系の働きも減弱し、外部からの感染に対する抵抗性が弱まることがある。また、一時的に症状が改善しても、自己抗体産生の元となるB細胞が再度増えれば症状が再燃するため、根本的な治療効果が得られるとは限らない。

自己抗体産生には、B細胞と同じ自己抗原を認識する自己反応性Th細胞が必要となる。よって、自己反応性Th細胞を識別し選択的に排除することができれば、自己免疫応答の大元を抑え込む自己免疫疾患の根本治療への道が開ける。加えて、自己反応性Th細胞に限局した介入をしても、通常の免疫応答は影響を受けないと予想され、外部からの感染への抵抗性を維持し、自己免疫疾患のみを標的とした理想的な治療法が実現できる。そこで、疾患ごとに自己抗原を同定し、その反応を選択的に抑え込む方法が試みられているが、自己免疫疾患における自己抗原の役割は捉えどころがなく、実現可能性は今のところ未知数だ。自己反応性T細胞の特異的な識別法があれば、抗原とは無関係に自己免疫疾患のみを抑制することができるが、これまで雑多な細胞集団の中から自己反応性T細胞を見分ける方法はなかった。

NR4A2が自己反応性Th細胞の機能制御分子であることをモデルマウスで確認

研究グループは以前に、多発性硬化症患者(MS)と、その動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の病態解析から、病原性Th細胞においてNR4A2分子が重要な役割を果たすことを発見していた。MS/EAEでは、Th17細胞の表現型を獲得した自己反応性Th細胞が病気を引き起こす。そこで研究グループは、マウスが自己抗原に晒された時にのみT細胞のNR4A2発現が増加するというデータを手がかりとして、NR4A2が自己反応性Th細胞の機能に重要な役割を果たすと予想した。これを検証するために、SLE様の病態を自然発症するBXSB-Yaaマウス背景のNR4A2cKO(BXSB)マウスを樹立したところ、脾臓やリンパ節の腫大や、血清中の総IgG量およびIgG2a抗体量の顕著な増加が強く抑制された。さらに、血清中の抗核抗体を含む自己抗体量もNR4A2cKO(BXSB)マウスでは顕著に抑制されており、抗原抗体複合体の沈着による糸球体腎炎様の所見も著しく改善していることが判明した。

さらに、抗体産生に関わるTfh細胞(PD-1+CX3CR5+)とTph細胞(PD-1+CX3CR5-)が、ともに低下していることも判明。病態への寄与はTfh細胞よりもTph細胞の強い傾向を認めたが、どちらかのみが関与するということはなかった。また、外来抗原に対するNR4A2cKO(BXSB)マウスの免疫応答には異常が認められず、NR4A2が自己反応性Th細胞に限局して機能していることが示された。

T細胞受容体(TCR)の特定のアミノ酸配列が、T細胞の自己反応性の判定基準になることが報告されている。そこで、NR4A2cKO(BXSB)マウスと対照マウスの脾臓Th細胞のTCRの配列解析を実施。その結果、NR4A2cKO(BXSB)マウスでは、自己反応性Th細胞が選択的に減少した一方、その他のTh細胞は維持されていることが判明。このことから、NR4A2が自己反応性Th細胞の機能制御分子であることが明らかとなった。

自己反応性T細胞のマーカー分子として「Nrp-1」を同定

次に、発症に伴って増加しNR4A2遺伝子の欠損により低下するTh細胞サブセットの探索を行った。その結果、Nrp-1分子が自己反応性Th細胞の選択的なマーカー分子であることを見出した。

このNrp-1陽性の自己反応性Th細胞は正常マウスにはほとんど存在しないが、発症後のBXSB-Yaaマウスでは爆発的に増殖しており、脾臓重量、血清総IgG、抗核抗体量とよく相関していた。一方で、NR4A2cKO(BXSB)マウスでは、Nrp-1陽性Th細胞は顕著に減っていた。Nrp-1陽性Th細胞は、別のSLEモデルマウスであるMRL-lprマウスや、自己反応性Th細胞の除去システムに異常を持つAire遺伝子欠損マウスでも有意に亢進しており、自己反応性T細胞のマーカー分子としての重要性が裏付けられた。

Nrp-1を標的とした自己免疫疾患の治療でモデルマウスの病態が有意に改善

続けて、Nrp-1陽性Th細胞の病原性と、同細胞を標的とした自己免疫病態治療の有効性の検証を行った。まず、BXSB-Yaaマウスから分離したNrp-1陽性Th細胞を別のマウスに移植したところ、移植マウスでは脾臓が有意に大きくなり、血清IgG量および抗核抗体量も増加した。以上のことから、Nrp-1陽性Th細胞が確かにSLE様の自己免疫疾患を引き起こす原因であることが判明した。

Nrp-1は、特定のがん細胞に対するドラッグデリバリーシステムの標的分子として注目されており、複数のNrp-1標的ペプチドが知られている。そこで、Nrp-1結合モチーフとアポトーシス誘導モチーフからなる合成ペプチド(RPAペプチド)をBXSB-Yaaマウスに投与したところ、脾臓重量、血清IgG量および抗核抗体量がいずれも顕著に改善し、Nrp-1陽性Th細胞の頻度も有意に低下することがわかった。以上の結果から、Nrp-1を高発現した自己反応性Th細胞を標的とした予防的あるいは治療的介入により、自己免疫病態の有意な改善が得られることが明らかとなった。

ヒトの自己免疫疾患患者でもNrp-1を発現するTh細胞集団の増加を確認

最後に、このNrp-1陽性Th細胞が、ヒトの自己免疫疾患でも同様の挙動を示すか否かを調べた。健常人のNrp-1陽性Th細胞の頻度はおおむね1%未満だったが、SLEではNrp-1陽性細胞頻度が有意に亢進した患者が複数認められ、ヒトの自己免疫疾患に関連したNrp-1陽性Th細胞の有意な増加が確認された。以上の結果から、Nrp-1陽性細胞の増加は自己免疫疾患と密接に関連したイベントであり、一連の研究結果がヒトの自己免疫疾患でも再現できることが明らかになった。

自己免疫病態のみを標的とした、より効果的で副作用の少ない治療法の実現に期待

1つのT細胞が特定の抗原に反応するかは容易に判定できるが、そのT細胞が反応し得る抗原全体を捉えることは極めて困難だ。がん免疫の研究領域では、がん関連抗原に特異的なTCR遺伝子改変T細胞を用いた治療の試みが行われているが、あくまでも抗原が確定していることが前提となる。これまで自己免疫疾患における自己抗原の性状解析は、モデル動物の研究を除きほとんど進んでおらず、将来的に特定の自己抗原に反応するTh細胞の機能抑制が実現可能か否かも不明だ。一方、今回の研究成果によりNrp-1発現がTh細胞の自己反応性を規定する極めて有用なマーカー分子として、自己反応性Th細胞の識別や治療標的などに応用可能なことが示された。

今後、他の自己免疫疾患におけるNrp-1陽性Th細胞の挙動を順次解析し、今回の研究成果がより広範な疾患に適用可能であることを示していくとともに、種々の自己免疫疾患の病勢を推測する診断マーカーおよび治療反応性マーカーとしての応用可能性についても検証していくことが期待される。さらに、Nrp-1を標的とした自己反応性Th細胞の制御法が確立すれば、MSのようにT細胞が主体の疾患に対する直接的な治療に加えて、既存のB細胞標的治療法にアドオンすることで、抗体依存性の自己免疫疾患に対してもより長期の寛解導入が期待できる。

「生体防御に関わる免疫応答の本来の機能への影響は最小限と考えられるため、感染症への抵抗性を維持しつつ、自己免疫病態のみを標的とした、より効果的で副作用の少ない理想的な治療法の実現が期待される」と、研究グループは述べている。

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