医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 濾胞性リンパ腫で新たなT細胞集団を発見、予後予測因子となる可能性-筑波大ほか

濾胞性リンパ腫で新たなT細胞集団を発見、予後予測因子となる可能性-筑波大ほか

読了時間:約 4分49秒
2025年07月31日 AM09:00

悪性リンパ腫で2番目に多い濾胞性リンパ腫、再発率の高さが課題

筑波大学は7月7日、濾胞性リンパ腫において増加が見られ、かつ特徴的な遺伝子発現と空間分布パターンを持つ3つの濾胞T細胞サブセットを新たに同定したと発表した。この研究は、同大医学医療系の坂田(柳元)麻実子教授、安部佳亮講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Cell」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

悪性リンパ腫は、主にリンパ節などのリンパ系組織から発生する血液がんで、血液がん全体の中で最も発症率が高く、国内外で増加傾向にある。多くの悪性リンパ腫は依然として根治が困難であるため、腫瘍細胞自体に加えて、腫瘍細胞の周囲にあるさまざまな種類の細胞(微小環境細胞)を標的とした治療開発が注目を集めている。

濾胞性リンパ腫は、リンパ節や扁桃などの免疫組織に存在する胚中心B細胞が悪性化(がん化)して増殖する腫瘍で、悪性リンパ腫のうち、2番目に発症率が高い。濾胞性リンパ腫では、がん化した悪性B細胞が腫瘍性濾胞と呼ばれる異常な構造を形成しながら拡大・増殖する。病態は緩やかに進行するが、初期治療後の再発率が高いことが課題となっている。一方、無治療経過観察中に腫瘍が自然と小さくなるという特徴的な臨床経過を示す場合があることが知られている。その理由として、T細胞などの微小環境細胞による特別な免疫機構の存在が考えられているが、詳細は明らかになっていなかった。

「濾胞性T細胞」に着目、患者検体を用いた詳細な解析を実施

濾胞性リンパ腫では腫瘍性濾胞構造が顕著に増大していることから、この構造に親和性のある「濾胞T細胞」と呼ばれるT細胞集団が、特に病態に関与していると考えられる。しかし、濾胞T細胞のうち、B細胞の働きを助ける濾胞ヘルパーT(TFH)細胞が増加し、腫瘍の発生や進展に関与していることはこれまでに示されているものの、それ以外の詳細は不明だった。

そこで今回の研究では、単一細胞レベルの詳細な解析と、空間的な位置情報を組み合わせた解析により、濾胞性リンパ腫における濾胞T細胞の多様性やその生物学的・臨床的意義を明らかにすることを目的とした。

同研究では、筑波大学附属病院と協力病院からヒト濾胞性リンパ腫と正常リンパ節の検体を収集し、シングルセルRNAシーケンスにより、個々の細胞の種類や状態の違いを高精度に分析した。

濾胞性リンパ腫で新しい3つの濾胞T細胞クラスターを発見

T細胞について、単一細胞あたりの遺伝子発現情報を統合し、数理学的な手法を用いて似た特徴を持つ細胞同士の分類(クラスタリング解析)を試みたところ、既知のTFH細胞以外に、比較的小さな細胞クラスター(サブセット)として、濾胞制御性T(TFR)細胞、CD4陽性濾胞細胞傷害性T(TFC4)細胞、CD8陽性濾胞細胞傷害性T(TFC8)細胞が新たに検出された。

さらに、3つの濾胞T細胞サブセットのT細胞中の割合は、濾胞性リンパ腫において正常リンパ節と比較して有意に高く、これらのサブセットが濾胞性リンパ腫の病態に深く関与していることが示唆された。遺伝子発現量の違いを解析したところ、これらの濾胞T細胞サブセットは、特有のマーカー遺伝子に加えて、細胞遊走機能(細胞が体内で移動する能力)、TFH細胞の特徴的機能(特に濾胞構造に滞在する上で必要な機能)、免疫抑制機能、細胞傷害機能、組織滞在機能、幹細胞性といった多彩な細胞機能に関連する遺伝子を高発現していた。

がん種横断的な解析で濾胞性リンパ腫に特徴的な細胞サブセットであることを確認

また、濾胞性リンパ腫を含めた合計26種類のがん種に由来するT細胞のシングルセルRNAシーケンスデータを公開データから収集し、今回の研究で得たデータと統合することで、がん種横断的単一細胞解析を実施した。その結果、T細胞中に占めるTFR細胞、TFC4細胞、TFC8細胞の割合は、いずれも濾胞性リンパ腫において最も高いことが明らかになった。

TFC8細胞は皮膚メラノーマ(悪性黒色腫)などのがん種においても高い頻度で認められたが、濾胞性リンパ腫のTFC8細胞は、特に細胞遊走機能や細胞傷害機能、幹細胞性などに関連する遺伝子の発現が亢進していた。このことから、今回発見した濾胞T細胞サブセットは、正常リンパ節や他の多くのがん種と比較して、濾胞性リンパ腫の微小環境において増加しており、その過程で特別な遺伝子発現プロファイルを獲得していると考えられた。

空間解析技術で濾胞性リンパ腫組織における各サブセットの分布パターンを解明

次に、単一細胞空間解析技術(Xenium In Situシステム)を用いて、濾胞性リンパ腫の組織内における濾胞T細胞サブセットの分布パターンを調べた。

解析によって、TFR細胞は濾胞構造内部に細胞を引き寄せるケモカインであるCXCL13に誘導されることで腫瘍性濾胞構造の内部に分布し、TFC4細胞とTFC8細胞は濾胞構造から細胞を遠ざけるケモカインCCL19やCCL21とCXCL13の両方向に引き寄せられ、その中間区域である腫瘍性濾胞構造の外周領域に分布することが強く示唆された。この空間分布パターンは、多重免疫染色システム(PhenoCycler-Fusionシステム)による242例の空間解析でも確認された。

さらに、TFR細胞はTFH細胞と共在して独特な微小環境を形成し、TFH細胞が悪性B細胞をサポートする働きを特異的に抑制して抗リンパ腫作用を発揮していることが示唆された。このことは、試験管内での細胞機能実験によっても証明された。また、TFC8細胞の悪性B細胞に対する直接的な細胞障害機能も実験的に示された。

3つのサブセットを誘導する因子としてIL-21、TGF-βを同定

さらに、細胞培養実験により、TFR細胞、TFC4細胞、TFC8細胞の特徴を誘導する共通の因子として、濾胞性リンパ腫の微小環境において豊富に産生され、免疫などに関連するサイトカインであるインターロイキン21()と、細胞の増殖・分化、免疫の働きなどを幅広く調節するタンパク質である形質転換増殖因子β()の組み合わせを見出した。濾胞性リンパ腫において、悪性B細胞はTFH細胞と相互に活性化し合い増殖することが知られているが、活性化したTFH細胞がIL-21を産生していることから、この相互活性化の過程においてTFR細胞、TFC4細胞、TFC8細胞も生み出され、濾胞性リンパ腫の増殖を抑制するという独特な細胞生態系が存在していることが示唆された。

このような悪性B細胞が、増殖の過程で自己の増殖を抑制する働きを有する細胞を誘導してしまう機構は、濾胞性リンパ腫の緩やかな進行や自然消退といったユニークな病態の背景となっていると考えられた。

濾胞T細胞サブセットが再発リスクの予測因子に

最後に、242人から集めた濾胞性リンパ腫サンプルに対して多重免疫染色を実施し、T細胞中のTFR細胞、TFC細胞(TFC4細胞、TFC8細胞を合計)の割合を患者ごとに算出した。その結果、それらの細胞の割合が高い患者は悪性リンパ腫再発までの期間が有意に長く、濾胞性リンパ腫再発の独立した予測因子となることが示された。

濾胞性リンパ腫の治療最適化、新たな治療法開発に期待

今回の研究によって、悪性リンパ腫に特異的ともいえる新たな特徴を示す3つの濾胞T細胞サブセットの存在が明らかになった。これらの細胞サブセットは、濾胞性リンパ腫の臨床像の謎を解き明かす上で鍵を握っていると考えられることから、今後、マウスモデルなどを用いたより基礎的な実験による検証が求められる。

「濾胞T細胞サブセットの解析は、濾胞性リンパ腫患者の予後を正確に層別化し、治療戦略の最適化に資する可能性があり、将来的に重要な臨床パラメータとなり得る。さらに、これらの細胞サブセットの特徴を誘導する方法を活用した新たながん治療戦略の開発が期待される」と、研究グループは述べている。

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • COVID-19、変異株に有効なT細胞抗原を日本人感染回復者から発見-熊本大ほか
  • 一般生活者の「もの忘れ」での受診意向低、早期対応への啓発が重要-リリー
  • TNBC、がん細胞とマクロファージの特定分子を介した転移機構を解明-筑波大ほか
  • 歯科心身症患者の社会経済的背景を調査、現役世代の生活困窮者は1.5%-科学大
  • 双極性障害、高齢発症患者の死後脳解析で特定の病変を同定-順大ほか
  • あなたは医療関係者ですか?

    いいえはい