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AI骨粗鬆症診断補助システムを開発、腰のX線画像から骨密度を推定-東大病院

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2025年07月31日 AM09:30

骨折するまで気づきにくい骨粗鬆症、検診受診率は約5%と低い

東京大学医学部附属病院は7月9日、腰のX線画像を用いて、腰と足のつけ根の骨の密度を人工知能(AI)で同時に調べる「AI骨粗鬆症診断補助システム」を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の茂呂徹特任教授と田中栄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Orthopaedic Research」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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骨粗鬆症は加齢などの影響で骨密度が低下し、骨がもろくなって折れやすくなる疾患である。閉経後の女性に多く見られるが、他の病気やその治療が原因で発症することもある。国内の予防と治療診療ガイドラインでは、骨粗鬆症のスクリーニングや診断には、専用の測定機器(DXA装置)を用いて腰と足のつけ根の骨密度を測定することが推奨されている。しかし、これらの装置は代替機器を含めても限られた医療機関にしか設置されておらず、検査の機会が限られているのが現状だ。また、骨粗鬆症は骨折するまで自分では気づきにくいため、多くの人が検査や治療を受けないまま過ごしていることも大きな課題である。日本整形外科学会の調査によると、足のつけ根を骨折して医療機関を受診した人の約75%が、骨粗鬆症の治療を受けていなかったと報告されている。また、国内の推定患者数は約1590万人にのぼる一方で、骨粗鬆症検診の受診率は約5%にとどまっており、早期発見・早期治療の重要性が指摘されている。

研究グループは、これらの課題解決をめざし、X線画像から腰(腰椎)と足のつけ根(股関節)の骨密度を人工知能(AI)で推定する新しい技術を開発した(国内外で特許取得済み)。今回の研究では、整形外科の外来で腰痛などの診察時に頻繁に撮影される腰のX線画像を活用することで、画像に写っている腰はもちろん、画像に写っていない足のつけ根の骨の状態まで高い精度で推定できることを世界で初めて示した。

日常的に撮影するX線画像から骨の状態を”ついで”に評価

AI骨粗鬆症診断補助システムは、地域住民を対象とした長期健康調査データ(ROAD study)をもとに開発され、DXA装置での計測値との比較において、腰椎で0.89、股関節で0.74という高い相関係数を示した。これにより、このシステムは従来の代替測定機器と同等以上の推定精度が期待できることが確認された。AI骨粗鬆症診断補助システムは、すでに多くの医療機関に設置されているX線撮影装置をそのまま活用できるため、特別な機器を新たに導入せずとも、日常的に撮影されているX線画像から骨の状態を”ついで”に評価することが可能となる。患者に症状がなくても、検査や診察の機会を利用して骨粗鬆症のスクリーニングや診断の補助が受けられる仕組みだ。

さらに研究グループは、腰以外にも、健康診断で撮影される胸部X線画像や、整形外科で撮影されることの多い膝や頸椎(首)などを対象としたAI技術も開発しており、全身のX線画像を活用した多角的な骨の健康評価の可能性が広がっている。

医療機関や検診事業への実装、高齢化が進む世界各国にも展開

骨粗鬆症は、骨折をきっかけに寝たきりや要介護状態につながるリスクが高く、寿命にも影響することが知られている。今回の研究成果は、骨折の前に病気を見つけて治療を開始できる可能性を拓くものであり、健康寿命の延伸、生活の質の向上、高齢者の自立支援に寄与することが期待される。

「今後は、全国の医療機関や地域の検診事業などへの実装を進めるとともに、日本発の医療AI技術として世界への展開も視野に入れ、実用化に向けた取り組みを進めていく。特に高齢化が進む諸外国においても、同様の課題を抱えており、本技術は国際的な医療課題の解決にも貢献できる可能性がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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