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開発したシリコン製剤が、潰瘍性大腸炎マウスの大腸と脳の症状を改善-阪大産研ほか

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2022年07月26日 AM10:40

抗酸化物質の水素を発生する「」、潰瘍性大腸炎の治療薬となり得る?

大阪大学産業科学研究所は7月21日、シリコン製剤が抗酸化および抗炎症作用を介して潰瘍性大腸炎の大腸と脳の症状を緩和することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の小林悠輝特任准教授と小林光特任教授(常勤)、医学系研究科神経細胞生物学の小山佳久助教と島田昌一教授、生命機能研究科の吉岡芳親特任教授(常勤)、筑波大学生命環境系の大津厳生准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

潰瘍性大腸炎は大腸粘膜に潰瘍やびらんができる原因不明の非特異性炎症性大腸炎であり、寛解と再燃を繰り返して慢性化する難治性疾患。消化管の炎症が脳腸相関を介して脳機能にも影響を与えるため、増悪期にうつ症状や不安障害など精神症状を発症する危険が高く、精神症状は潰瘍性大腸炎再燃に深く関与している。したがって、潰瘍性大腸炎の治療には、腸と脳の両方の症状緩和に有効な治療薬の開発が求められる。

発症原因の一つに「酸化ストレス」の関与が挙げられることから、適切な抗酸化作用を有する薬剤が同疾患の有効な治療薬となる可能性がある。研究グループが開発したシリコン製剤は、経口摂取によって水素を腸管で大量かつ持続的に発生し続けることができる。水素は有害な活性酸素を特異的に消滅できる優れた抗酸化物質だ。

研究グループはシリコン製剤が、「直接患部に抗酸化物質を持続投与できる」「水素はこれまでに副作用の報告がない」「パーキンソン病モデルマウスにおいてシリコン製剤は神経保護作用を示した」ことから、寛解導入および長期寛解維持が可能な潰瘍性大腸炎の治療薬になる可能性が高いと考え、研究を遂行した。

シリコン製剤が、モデル動物の「全身炎症」や「酸化ストレス」の亢進を抑制

研究グループは、開発したシリコン製剤を投与したパーキンソン病や慢性腎不全の病態モデル動物において、その症状を緩和したことを明らかにした。潰瘍性大腸炎の主症状は患部の炎症だが、シリコン製剤は、炎症による大腸短縮や腸管構造の崩壊を緩和し、全身炎症も抑制していた。また、病態の悪化やがん化には酸化ストレスの蓄積も大きく関与しているが、シリコン製剤は血中の酸化ストレス亢進や、大腸の過酸化脂質蓄積を緩和していた。シリコン製剤による症状緩和効果は、水素の抗酸化および抗炎症作用が大きく関わっていると考えられるという。

また、潰瘍性大腸炎発症時、ビタミンCなどの他の抗酸化物質が減少することが知られているが、今回の研究で同様に水素も減少することが明らかになった。しかし、シリコン製剤を投与していたマウス大腸では、非投与マウスと比べて水素の減少が抑制されていた。シリコン製剤は、患部である大腸で水素を効率よく発生することで炎症による水素の枯渇を防ぎ、患部の炎症や酸化ストレスの蓄積を緩和したと考えられるという。

水素と活性硫黄による抗酸化や抗炎症作用を介し、潰瘍性大腸炎の症状を緩和

次に、生体内の酸化還元反応に大きな役割をもつ硫黄化合物の代謝物の解析(サルファーインデックス解析)によって、大腸の酸化還元状態を調べた。健常な大腸は還元状態を示すが、潰瘍性大腸炎時では、大腸炎に伴う酸化代謝物の蓄積によって大腸が酸化されていた。しかし、シリコン製剤投与により、大腸炎発症に伴う大腸の酸化が抑制されていることが判明した。また、シリコン製剤投与マウス大腸では、健常時から強力な抗酸化作用を示す「グルタチオンパースルフィド」などの活性硫黄の発現が上昇していた。これにより、シリコン製剤の抗酸化作用は「活性硫黄」も担っていることが示唆された。

以上より、シリコン製剤は水素および活性硫黄による抗酸化、抗炎症作用を介して、潰瘍性大腸炎の症状を緩和していることが明らかとなった。

脳における知覚・精神症状の緩和にも作用している可能性

シリコン製剤投与により、患部である大腸の症状は緩和していたが、再燃を防ぎ寛解を維持するためには、精神症状の緩和も重要だ。そこで研究グループは、内臓の不快感や内臓痛に関わる神経細胞群の活性化状態を解析した。その結果、未投与群では脳の延髄背側部の孤束核や迷走神経背側核および扁桃体中心核の神経細胞の活性化が観察されたが、シリコン製剤投与により、それらの神経核群の活性化が抑制されたという。

以上より、シリコン製剤は大腸患部の病態悪化抑制および症状緩和だけでなく、脳における知覚・精神症状の緩和にも作用している、つまり、不快感が顕著に低減している可能性が示唆された。

シリコン製剤が潰瘍性大腸炎の新たな治療薬候補となることに期待

今回の研究成果により、シリコン製剤が潰瘍性大腸炎における大腸と脳の症状を緩和することが明らかにされた。「シリコン製剤は、寛解と再燃の悪循環を断ち切ることのできる新たな治療薬候補として、大いに期待される」と、研究グループは述べている。

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