医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 節性T濾胞ヘルパー細胞リンパ腫、遺伝子異常の全体像から予後を層別化-北大病院ほか

節性T濾胞ヘルパー細胞リンパ腫、遺伝子異常の全体像から予後を層別化-北大病院ほか

読了時間:約 4分11秒
2025年06月05日 AM09:10

臨床的に不均一なnTFHL、遺伝子異常情報を組み合わせた予後予測モデルは未検証

北海道大学病院は5月26日、予後不良な悪性リンパ腫のひとつである節性T濾胞ヘルパー細胞リンパ腫(nodal T follicular helper cell lymphoma, nTFHL)の遺伝子異常の全体像と、それに基づいた分子分類の臨床的有用性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院の下埜城嗣元医員(当時)、中川雅夫講師、国立がん研究センター研究所分子腫瘍学分野の伊藤勇太氏(任意研修生)、慶應義塾大学医学部内科学教室(血液)の片岡圭亮教授(国立がん研究センター研究所分子腫瘍学分野 分野長兼任)、久留米大学医学部病理学講座の河本啓介氏、三好寛明教授、大島孝一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Leukemia」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

nTFHLは血液がんの最新の分類基準であるWHO分類第5版ではじめて導入された疾患単位だ。T濾胞ヘルパー(TFH)形質を有する末梢性T細胞リンパ腫の一つであり、病理学的にはPD1やICOSなどのTFH関連マーカーを発現していることが特徴で、さらに血管免疫芽球型(nTFHL-angioimmunoblastic type, nTFHL-AI)、非特定型(nTFHL-not otherwise specified, nTFHL-NOS)、濾胞型(nTFHL-follicular type, nTFHL-F)の3病型に分類される。

これまでの遺伝子解析研究により、nTFHL-AIにおいては、疾患特異的な変異であるRHOA G17Vやエピゲノム修飾因子であるTET2、IDH2などの変異、T細胞受容体シグナル経路を活性化するPLCG1などの変異を高頻度に認めることが報告されているが、nTFHL全体および3つの病型における遺伝子異常の全体像や、病型間での異常パターンの違いについては十分に検討されていなかった。

また、nTFHLの予後は一般には不良だが、一部には緩徐に進行する症例があることが知られており、臨床的には不均一な疾患であることから、患者一人ひとりの病態や予後リスクを正確に把握し、治療内容を調整するなどのきめ細やかな治療選択が必要だ。国際予後指標(international prognostic index, IPI)などの、臨床因子に基づいた予後予測モデルが提唱されているが、ここに遺伝子異常情報を組み合わせることで予後予測性能が改善するかどうかについては検証がされていなかった。

173例の患者対象、標的シーケンスによる242個のドライバー遺伝子解析実施

そこで研究グループは、nTFHLを含む患者集団を対象とした遺伝子解析としては最大の173例を解析し、遺伝子異常の全体像を明らかにするとともに、臨床病理学的特徴の異なる4つの亜型からなる分子分類を作成した。さらに、これらの遺伝子異常が予後に与える影響について検証を行った。

今回、北日本血液研究会(北海道大学病院を含む)と久留米大学から最新のWHO分類5版の診断基準に合致するnTFHLの検体を合計173例収集した。これまでの遺伝子解析研究の結果を参考にして、T/NK細胞腫瘍における242個のドライバー遺伝子を対象とした標的シーケンス(平均シーケンス深度:800×)を施行した。これらの遺伝子の変異と、TP53およびCDKN2Aを標的にするコピー数異常を解析した。

新規4個含む35個のドライバー遺伝子同定、遺伝的背景の多様性示す

標的シーケンスのデータを用いて、まずは変異に着目した解析を行った結果、nTFHLでは4個の新規遺伝子(TET3、HLA-C、KLF2、NRAS)を含む35個のドライバー遺伝子が同定された。中でもTET2(67%)が最も高頻度であり、RHOA(46%)、IDH2(23%)、DNMT3A(18%)、PLCG1(9%)、TP53(8%)、HLA-A(5%)、HLA-B(5%)の変異がそれぞれ5%以上の症例で検出された。また、コピー数解析を行うと、CDKN2Aの限局的な欠失が6%に認められた。TP53およびCDKN2Aの欠失情報を変異の情報に併せて、合計36個の遺伝子について計算すると、145例(84%)が少なくとも1つのドライバー異常を有していた。これらの結果は、nTFHLにおける遺伝的背景の多様性を示している。

5つの遺伝子異常に基づく4つの分子分類作成、各亜型が臨床的に明確な特徴示すと判明

次に、これらの遺伝子異常によって、nTFHLを分類することができるか検証した。このために、まず高頻度に認められたドライバー変異とコピー数異常を用いて階層的クラスタリングを実施し、遺伝学的に異なる4つのプロトタイプ亜型を同定した。その後、これらのプロトタイプ亜型の特徴を参考に、より簡便で臨床的に使いやすい分類法とするために、TET2、RHOA、IDH2、TP53、CDKN2A異常に基づく4つの分子亜型[TR-I (+)、TR-I (-)、AC53、NSD]からなる分子分類を作成した。

これらの分子亜型は臨床的に明確な特徴を示した。特にTR-I(+)は進行期の病期と関連しており、nTFHL-AIの典型的な臨床的特徴と一致していた。AC53は男性に多く、節外病変を有する症例が目立った。一方、NSDの大部分がnTFHL-NOSであり、若年者、限局期例が多く、performance statusやIPIも他の亜型に比較して有意に良好だった。各分子亜型における機能的経路に着目すると、TR-I(+/-)はTFH関連遺伝子の頻度が高く、AC53ではDNA修復に関連する遺伝子異常の頻度が高いという特徴を認めた。

遺伝子異常情報と臨床因子組み合わせた予後予測モデル開発

特筆すべきことに、AC53は極めて予後不良である一方で、NSDは予後良好であり、特にドライバー異常を有さないNSD症例では極めて良好な予後を示した。これらの知見に基づいて、1.TP53またはCDKN2A異常の有無、2.ドライバー異常の有無、3.臨床因子である国際予後指標(IPI)高リスクの3項目からなる、新しい臨床遺伝学的予後予測モデル「molecular TFHL-prognostic index(mTFHL-PI)」を作成し、0点を低リスク、1点を中等度リスク、2点以上を高リスクに分類することで、nTFHLの予後が有効に層別化されることを示した。

「今回の研究により、nTFHLにおける遺伝子異常の全体像を明らかにし、臨床的および遺伝学的に異なる4つの分子亜型を同定した。さらに、臨床因子と遺伝子異常情報を統合することでより有効な予後予測スコアを構築することができた。これらの成果は、nTFHLにおける個別化医療の推進や新規治療の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • がんエピゲノムを標的とする新規核酸医薬を開発、動物モデルで良好な結果-阪大ほか
  • 血友病Aの新薬候補NXT007、P1/2試験で年間出血率を大きく改善-中外
  • がん抗原特異的なヘルパーT細胞応答を高める改変エクソソームを開発-金沢大
  • 「睡眠学習」が生じる条件の理論的予測に成功、シナプス結合がカギ-東大ほか
  • 胆道がんの予後と治療抵抗性、KRAS遺伝子変異が関連と判明-慶大ほか
  • あなたは医療関係者ですか?

    いいえはい