医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 母親のヨードばく露と子どもの甲状腺機能低下症リスクの調査結果を発表-山梨大

母親のヨードばく露と子どもの甲状腺機能低下症リスクの調査結果を発表-山梨大

読了時間:約 3分28秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年09月03日 AM11:45

医療行為での母親ヨードばく露、生まれた子の甲状腺機能低下症発症と関わりは?

山梨大学は8月31日、「子どもの健康と環境に関する全国調査()」による約10万人のデータを用い、母親のヨードばく露と子どもの甲状腺機能低下症について解析した結果を発表した。この研究は、同大エコチル調査甲信ユニットセンター(センター長:山縣然太朗社会医学講座教授)の社会医学講座・横道洋司准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Endocrine Journal」に掲載されている。

先天性甲状腺機能低下症は、適切な治療を受けなければ、子どもの運動機能の発達と知的発達が遅れる疾患。同疾患のリスクとして、母親のヨードばく露が指摘されている。例えば、母親のバセドウ病(甲状腺機能亢進症)と子どもの先天性甲状腺機能低下症の罹患リスクの増加は関連することが知られている。

医療行為のなかで母親のヨードばく露として懸念されているのは、出産時のポビドンヨード消毒と、不妊時に検査と治療を兼ねて行われる子宮卵管造影検査で用いるヨード系造影剤だ。同研究は、これら2つの母親へのヨードばく露が生まれてくる子どもの甲状腺機能低下症発症に関わっているかを明らかにするために行われた。

エコチル調査参加の親子の出生コホートデータを解析

今回の研究では、環境省のエコチル調査に参加している日本の約10万組の親子の出生コホートデータを解析した。登録時の母親()への質問票、分娩時の医師への調査票、1歳時の保護者への質問票のデータから、妊娠週数、母親の甲状腺疾患・出産時のポビドンヨード消毒・妊娠までの3か月以内の子宮卵管造影検査の既往別に解析した。生まれた子どもが1歳までに先天性甲状腺機能低下症と医師に診断されたかどうかの回答を基に罹患率を計算し、これらの既往が先天性甲状腺機能低下症の罹患にどの程度影響しているかをオッズ比により計算した。

また、(先天性代謝異常等検査)と同様の方法を用いて、生後4~6日目にかかとから血液を濾紙に採取し、先天性甲状腺機能低下症のスクリーニング検査の基準で陽性・陰性を判定。この検査で陽性基準に該当したが、1歳までに先天性甲状腺機能低下症と診断されなかった子どもを「一過性甲状腺機能低下症」と定義して、同様に既往別にオッズ比が何倍かを計算した。

22~30週の早産、母親の甲状腺関連疾患がリスクに有意に関連

研究の結果、1歳までに先天性甲状腺機能低下症と言われた子どもは10万286人中144人(0.14%)、新生児期のろ紙血で先天性甲状腺機能低下症のスクリーニング基準陽性となった子どもは5万6,050人中389人(0.7%)だった。

正期産(妊娠週数37~41週)に比べて、妊娠週数22~30週の早産の子どもは1歳で先天性甲状腺機能低下症を発症するリスクが8.23倍に、母親がバセドウ病(甲状腺機能亢進症)の診断を受けたことがある場合は診断を受けたことがない場合に比べて7.06倍に、母親が橋本病(慢性甲状腺炎)の診断を受けたことがある場合は受けたことがない場合に比べて5.93倍だった。これらはいずれも統計学的に有意な結果だった。

31~36週の早産、出産時の母親のポビドンヨード消毒等はリスクと関連なし

一方、31~36週で生まれた子どもは正期産に比べて1.31倍、出産時に母親がポビドンヨード消毒を受けた場合は受けていない場合に比べて1.13倍、妊娠までの3か月以内に子宮卵管造影検査を受けたことがある場合は受けたことがない場合に比べて0.47倍だった。これらはいずれも統計学的に有意な結果ではなく、科学的にこれらが生まれた子どもの先天性甲状腺機能低下症のリスクとなっているとはいえない結果だった。

同研究で「一過性甲状腺機能低下症」との関連性について解析したリスクのうち、統計学的に有意な結果として、母親のバセドウ病(甲状腺機能亢進症)の既往が4.16倍、ポビドンヨード消毒の既往が1.99倍となった。統計学的に有意でない結果として、妊娠31~36週が0.49倍、子宮卵管造影検査の既往が0.63倍だった。

出産時の母親のポビドンヨード消毒は、生まれた子どもの一過性甲状腺機能低下症のリスクと関連があると考えられていたが、今回の研究から、1歳までの先天性甲状腺機能低下症のリスクとは関連していないことがわかった。

妊娠までの3か月以内の子宮卵管造影検査は、生まれた子どもの1歳までの先天性甲状腺機能低下症および一過性甲状腺機能低下症のいずれのリスクとも関連がなかったとしている。

正確な発症率は、精密検査の結果に基づいた計算が必要

今回の研究において、妊娠までの3か月以内の子宮卵管造影検査は、その後生まれてくる子どもの甲状腺機能低下症のリスク増加とは関連がなく、妊娠前にこの検査を実施することが生まれる子どもの甲状腺機能低下症をもたらすかもしれないという医療上の懸念を減らす結果となった。

なお、同研究は、医師に対する調査結果ではない。生まれた子どもが1歳までに「」と診断されたかを保護者に聞くアンケート調査結果だ。従来の報告では、先天性甲状腺機能低下症の罹患率は0.025~0.05%程度とされている。エコチル調査で新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)と同様の方法および基準で検査したところ、0.7%の子どもが陽性と判定される結果だった。

新生児期の先天性甲状腺機能低下症は、新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)で陽性判明後、医師による精密検査の結果に基づいて診断される。先天性甲状腺機能低下症の正確な発症率については、医師による精密検査の結果に基づいた計算が必要だ、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • OTULIN関連自己炎症症候群の常染色体顕性遺伝形式発症を確認、世界初-横浜市大ほか
  • 膵がん、線維化形成に関与するタンパク質ROCK2を同定-岡山大ほか
  • EYS関連網膜色素変性に視細胞変性への光暴露が関与、ヒトiPS細胞で解明-理研ほか
  • NGLY1欠損症、オキシトシン治療でモデルマウスのけいれん様症状抑制-理研ほか
  • 汗孔角化症、FDFT1遺伝子のエピゲノム異常が発症に関わることを発見-神戸大ほか