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プロスタグランジンE2が生活習慣病の発症を促すと判明、世界初-熊本大ほか

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2020年10月15日 AM11:45

グルカゴンとエピネフリン以外に脂肪分解を促進する刺激は?

熊本大学は10月12日、(PG)E2が、その受容体EP4を介して脂肪分解と線維化を促進し、肝臓への異所性脂肪の蓄積を引き起こして糖尿病などの生活習慣病の発症を促すことを世界で初めて明らかにしたと発表した。これは、同大大学院生命科学研究部の杉本幸彦教授、稲住知明助教らの研究グループが、東京大学大学院医学系研究科の村上誠教授、熊本大学大学院生命科学研究部の猿渡淳二教授、尾池雄一教授、佐々木裕名誉教授、日本赤十字社熊本健康管理センターの緒方康博名誉所長らと共同で行ったもの。研究成果は「Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

脂肪組織は、過剰なエネルギーを貯蔵する組織であり、絶えず脂肪の合成と分解が行われ、両者のバランスで脂肪蓄積量が決まる。最近の研究で、脂肪組織の線維化によって脂肪細胞が脂肪を蓄積できなくなると脂肪分解が進み、肝臓に異所性脂肪が蓄積し()、インスリン抵抗性が引き起こされることがわかってきた。したがって、脂肪分解の制御は代謝性疾患の成因を考える上で重要な要素となる。

これまで、脂肪分解は絶食時に放出されるグルカゴンや、低温暴露で分泌されるエピネフリンによって促進されることが知られていたが、他にどのような刺激で促進されるのかは明らかにされておらず、脂肪組織の線維化がどのような制御を受けるのかについても不明だった。

インスリン刺激がWATのEP4経路を活性化し、脂肪分解と線維化を促進

研究グループは、脂肪細胞の機能に影響を与えるPG受容体を同定するため、8種類のPG受容体欠損マウスを比較。その結果、受容体EP4欠損マウスは白色脂肪組織(WAT)の重量が増加するものの、肝脂肪の蓄積が少なくインスリン感受性も高い「代謝健康肥満」の表現型を示した。

脂肪細胞特異的EP4欠損マウスやEP4作動薬を用いた一連の研究により、摂食時のインスリン刺激がWATのEP4経路を動かし、脂肪リパーゼ関連分子を介して脂肪分解を促進すること、また、EP4経路はコラーゲンの発現亢進により、WATの線維化を促進することを発見した。つまり、摂食(インスリン)刺激がWATのEP4経路を活性化し、脂肪分解と線維化をともに促すことを見出した。このEP4の作用は、元来絶食から再摂食への個体の環境適応に寄与するものだが、現代の飽食環境においては、摂食の度にEP4が脂肪分解と線維化を亢進させ、糖尿病など生活習慣病の発症を招いてしまうと考えられる。

ヒトでもEP4が脂肪分解を促し脂肪肝や糖尿病の発症を促す可能性

さらに研究グループは、ヒトEP4発現量と相関する一塩基多型を同定し、EP4発現の低い人は非アルコール性脂肪肝に罹患しにくいこと、また脂肪肝患者では、EP4発現が低いと血中脂肪酸量も低く、脂肪分解が低く抑えられていることを発見した。同知見は、ヒトでもEP4が脂肪分解を促して脂肪肝や糖尿病の発症を促す可能性を強く示唆している。

「今回の研究成果は、脂肪肝や糖尿病の発症機構に関する新たな学術的理解を与え、摂食が生活習慣病を誘導する新しいメカニズムの一端を解明したと言える。アスピリンやEP4拮抗薬は、脂肪組織でのEP4の働きを弱め、生活習慣病の予防・治療に効果を発揮することが期待される。さらに今回同定したヒトEP4遺伝子の一塩基多型は、EP4が関与する疾患の予防や治療法の選択に有益なバイオマーカーとしての応用が期待される」と、研究グループは述べている。

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