ヒト心臓の心筋線維の配列を24週の胎児から発生をさかのぼって検討
京都大学は10月9日、ヒト胚標本20体を用いて、ヒト心臓の心筋線維の配列を拡散テンソルMRIを用いて検討した結果、心室の壁が厚みをもち始める胚子期後半の段階において、心筋線維の配列は、成人と同様であることを証明したと発表した。この研究は、同大医学研究科の高桑徹也教授、山田重人同教授、同大情報学研究科の今井宏彦助教、兵庫県立大学の原口亮准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Heart Association」に掲載されている。
画像はリリースより
心臓の大部分は心筋という特殊な筋肉から作られている。特に心室は心筋が袋状になり、全身に効率よく血液を送るために心筋線維が規則的に配列される必要がある。心筋線維の配列は、解剖学者Torrent-Guaspの心筋バンド説が長い間信じられていたが、近年、MRIを用いて、心臓を取り出さずに形態や構成する物質の性質を調べることが可能となり、心筋線維がどのように配列されているかについても、拡散テンソルMRI(DT-MRI)法という解析方法を用いて検討できるようになった。心室の壁を構成する心筋線維の向きは、どの壁においても、層状に内側から外側にかけてゆるやかに向きを変え、らせん状に配列することが示されており(メッシュモデル)、心筋バンド説は否定されている。
ヒトに心臓の心筋線維の配列がいつ頃からどのように形成されるのかについて、これまでの研究では胎齢20週頃にようやく成人と同様の配列を示すと報告されている。すると拍動開始(3週)から20週の間も、心臓は拍動していることになるが、その間、心筋の配列はどうなっているのかという疑問が出てくる。そこで研究グループは、ヒト心臓の心筋線維の配列を24週の胎児から発生をさかのぼって検討した。
心室の壁が形成され厚みを持ち始める胚子期後半の段階で、心筋線維の配列が成人と同様と判明
心筋の壁が組織学的に形成されるには、心臓が2心房2心室の4つの部屋に分かれ、冠状動脈という血管が形成され、心筋への血流が確保されるカーネギーステージ(CS)22(第8週中頃)であることがわかっている。そこで、今回の研究ではそれよりも若いCS20(第8週初め)までを解析対象とした。
解析の成功のためには、良質なヒト胚子標本の確保と、小さい標本を解析するために解像度の高い撮像装置、撮像条件の検討、解析法の確立が重要だ。良質なヒト胚子標本として、附属先天異常標本解析センターが収集、保管している、ヒト胎児大規模標本群(京都コレクション)を使用。この標本群は、世界最大規模の研究リソースとして知られており、その利用については京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院医の倫理委員会の承認のもとで研究が行われている。撮像装置としては、医学研究科医学研究支援センターが保有している前臨床用7T-MRIを用いた。撮像の対象及び目的に特化させた撮像条件と直径19mmの高感度MRIコイルを併用して、DTI撮像データの質の改善を行った。
その結果、心室の壁が形成され厚みを持ち始める胚子期後半の段階(CS20-23)においても、心筋線維の配列が、成人と同様の配列であることが示されたという。
先天性、後天性心疾患の原因解明、診断、治療等に関わる重要な知見
心臓の病気には、発生過程の異常に基づくものが多くあることからも、今回、心筋の配列過程が経時的に追求されたことは大きな意義があると言える。しかし、心拍動の開始から8週までの期間については、装置の解像度の問題から現在の方法での解析が難しく、今後の課題と言える。
「今回の結果は、先天性、後天性心疾患の原因解明、診断、治療等に関わる重要な知見で、その発展に貢献することが期待される。また、今回得られたDT-MRI撮像、解析技術は、心臓以外の他の臓器の形態形成の解析にも応用できるものと考えられる」と、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果