1万3,612人対象、社会的孤立・孤独感はコロナ感染・入院とどう関連?
東京都健康長寿医療センターは6月13日、全国規模の調査データを用いて、社会的孤立や孤独感とCOVID-19の感染および入院との関連を明らかにしたと発表した。この研究は、同センターの村山洋史研究副部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Social Psychiatry & Psychiatric Epidemiology」に掲載されている。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、感染症そのものの脅威だけでなく、人々の社会的つながりや心の健康にも大きな影響を与えた。特に、外出自粛や人との接触制限が続く中で、社会的孤立や孤独感の増加が懸念されてきた。これらの心理社会的要因が、COVID-19の感染リスクや重症化にどのように関連しているのかを明らかにすることは、今後の公衆衛生対策を考える上で重要である。
今回の研究は、COVID-19パンデミック中の日本において、社会的孤立および孤独感がCOVID-19の感染および入院とどのように関連しているかを明らかにする目的で実施された。2020年から毎年実施されている「Japan COVID-19 and Society Internet Survey(JACSIS)」の2020年と2022年のデータを使用し、2回の調査に回答している15~79歳の全国の男女1万3,612人を対象とした。社会的孤立は同居家族以外との直接的・間接的な接触頻度を基に、孤独感は世界的に使用されているUCLA孤独感尺度を用いて評価した。
社会的孤立状態の人は、COVID-19関連リスクが約24%低かった
社会的孤立と感染リスクは負の関連を示した。具体的には、社会的孤立状態にある人々では、そうでない人と比べてCOVID-19に感染するリスクが約24%低いという結果が得られた(オッズ比=0.76、95%信頼区間:0.65-0.88)。これは一見、意外な結果に思えるかもしれない。しかし、社会的孤立により他者との接触頻度が低くなることで、感染機会そのものが減少していた可能性が考えられる。つまり、「人とのつながりの少なさ」が、物理的な感染防御としてはある種の保護因子として作用した可能性がある。
孤独感が高い人、COVID-19入院リスク2.1倍
一方、孤独感とCOVID-19による入院リスク(=重度化リスク)との間には正の関連が見られた。孤独感が高い人は、COVID-19で入院するリスクが2.1倍であった(オッズ比=2.13、95%信頼区間:1.53-2.98)。この結果は、孤独感が心身の健康に及ぼす影響の大きさを示唆している。孤独感は、慢性的なストレス反応を引き起こし、免疫機能を低下させたり、健康管理行動の質を低下させたりする可能性があるとされている。そのため、実際に感染した場合に症状が重くなりやすく、入院に至るリスクが高くなったと考えられる。
「男性」は社会的孤立・孤独感の影響強く、孤独感が入院リスク高める傾向
また、同研究では性別による違いも明らかになった。男性では、社会的孤立や孤独感の影響がより強く、特に孤独感が男性の入院リスクを高めている傾向が顕著であった。これは、男性の方が孤独を訴えづらく、精神的ストレスや健康不安を表に出しにくい傾向が影響していると考えられる。
感染症対策における心理的なサポートの重要性を示唆
同研究は、社会的孤立と孤独感という一見似た概念が、COVID-19の感染および重症化リスクに異なる影響を与えることを明らかにした。特に、孤独感が重度化リスクの増加と関連していることから、感染症対策において心理的なサポートの重要性が示唆される。今後の公衆衛生政策においては、感染防止だけでなく、社会的つながりや心の健康を維持・促進する取り組みが求められる、と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース