欧州の分類を参考としていた希少がん、日本の実臨床に即した分類開発が必要
国立がん研究センターは6月10日、がんが発生する臓器と組織型で希少がんを分類する、新しい希少がん分類「New Classification of Rare Cancers(NCRC)」を策定したと発表した。今回の研究は、同センター中央病院希少がんセンターの川井章氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pathology International」に掲載されている。

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希少がんは患者の数が少ないことから、情報が少なく、診断や治療が難しいという課題がある。その課題を克服するため、第3期がん対策推進基本計画(2018年3月)において希少がんへの対応は重要な施策として位置づけられ、専門的な診療体制の整備や研究が推進されてきた。さらに第4期がん対策推進基本計画(2023年3月)においては、適切な診断に基づく治療を提供するため体制整備の推進に取り組むべきであると明記された。
どのがんが希少がんであるかを明確にするため、2015年に開催された厚生労働省「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」において、「おおむね罹患率人口10万人当たり6例未満、数が少ないため診療・受療上の課題が他のがん種に比べて大きい」がん種と定義され、分類については欧州のRARECARE分類が参考として用いられた。しかし、欧州の分類を、日本の希少がんの実態把握に適用させることへの課題も指摘され、日本の実臨床に即した分類が必要とされていた。
日本の実態に合わせた分類策定、国内希少がんは全がんの約2割占める
希少がんは、がんの発生が少ない臓器に発生するがんと、がんの発生が多い臓器のがんに発生する希少な組織型のがんに分けられる。そのため、新たに策定した希少がん分類NCRCは、世界的にがんの分類で用いられる国際疾病分類腫瘍学第3.2版(ICD-O-3.2)と、がんの組織型の分類に用いられるWHO分類第5版を用いて、臓器と組織型を組み合わせて作成した。
また、年間発生人口10万人あたり6例未満を基準に、日本のがん罹患を網羅する全国がん登録データ(2016~2019年)約410万例を、NCRCを用いて分析した結果、がんが発生することが少ない31臓器のがんと、がんの発生が多い臓器に発生する希少な組織型のがん364種からなる分類となった。また、希少がんに該当するがんは、全発生数の約2割を占めることが明らかになった。欧州のRARECARE分類と比較した結果では、RARECARE分類では希少がんに該当しないが、NCRCでは希少がんに該当するがんが、全がんの5.7%であることが明らかとなった。
国内の希少がん対策・アジア諸国との連携など、幅広い活用に期待
今回の研究で策定した新たな希少がんの分類は、今後、日本の希少がん対策において活用され、希少がんの医療体制の整備や専門医療の集約、支援策の充実につながることが期待されるもので、希少がん患者が適切な医療にアクセスできる社会の実現に向けた、重要な研究成果である。
今後、厚生労働省が実施する「がん診療連携拠点病院の現況報告」や「患者体験調査」、国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」における情報提供などでも活用され、将来的にはアジアの希少がんの治療開発を推進する国際共同研究MASTER KEY Asiaでの利用によるアジア諸国との連携や国際がん研究機関(IARC)を通じた全世界での新しい希少がん分類の基盤とすることが考えられる。「新たな組織型や疾患の登場に応じて、全国がん登録をもとに分類を継続的に見直し、アジア各国とのデータ連携を通じて、世界に向けた情報発信や協働の促進を目指す」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース