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インフルエンザウイルスゲノムの核内動態に宿主タンパク質「CLUH」が関与-東大

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2016年05月19日 PM01:00

生理的な機能がほとんど明らかになっていないCLUH

東京大学は5月11日、細胞の核内で複製されたインフルエンザウイルスゲノムが、複製された場所から輸送(核内輸送)されるのに関わる宿主のタンパク質として、CLUH(clustered mitochondria protein homolog)を同定したと発表した。この研究は、同大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らによるもの。研究成果は、英学雑誌「Nature Microbiology」オンライン速報版に5月16日付けで掲載されている。


画像はリリースより

インフルエンザウイルスは、細胞に感染すると、宿主のタンパク質を利用して複製・増殖することが知られている。インフルエンザウイルスのゲノムRNA(vRNA)は、感染した細胞の核内でウイルスタンパク質であるPB2、PB1、PAおよびNPと複合体「vRNP」を形成。核内で新たに作られたvRNPは、ウイルスタンパク質M1およびNS2とともに核外輸送複合体を形成し、宿主の核外輸送を担うタンパク質CRM1依存的に核外に輸送されることが報告されている。しかし、新たに作られたvRNPが核外に輸送されるまでに、核内でどのような動きをするのかは今まで明らかになっていなかった。

今回の研究では、インフルエンザウイルスの増殖に関与する宿主タンパク質の中で、vRNPの構成因子の1つであるPB2と相互作用するものを選択。さらに、生理的な機能がほとんど明らかになっていない宿主タンパク質であるCLUHに注目し、インフルエンザウイルス感染時の役割を解析したという。

特異的な核内輸送制御機構をターゲットとした治療薬の開発に期待

CLUHは通常、細胞質に局在するが、PB2の単独発現によって核に局在するようになった。また、M1の単独発現では、その局在が細胞質から核スペックルに変化。PB2を単独発現させただけでは核スペックルへの局在は確認できないが、PB2をM1と共発現させるとPB2は核スペックルに局在するようになり、M1およびCLUHとの共局在が観察されたという。このことから、PB2が核スペックルへ移行するためには、M1とCLUHが核スペックルに存在していることが重要であると考えられるという。

また、mRNAの破壊によって配列特異的に遺伝子の発現を抑制するsiRNAを用いてCLUHの発現を抑制すると、M1の核スペックルへの局在が低下するとともに、vRNPの核外への輸送も阻害された。これらの結果から、クロマチン領域において新たに作られたvRNPは、核スペックルを通過した後に、核外輸送複合体が形成される領域に到達すること、その移動にCLUHが必要であることが明らかになったとしている。

CLUHは、通常細胞質のみに局在するタンパク質であり、ウイルス感染により核に移行し、ウイルスゲノムの核内輸送に働くことから、ウイルスに特異的な核内局在の制御機構が存在することが示唆された。研究グループは、このウイルス特異的な核内局在制御機構がインフルエンザ治療薬開発の有望なターゲットとして期待される、と述べている。

 

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