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がん細胞のPD-L1発現にDNA 損傷と修復が重要な役割−群馬大ら

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2017年12月22日 PM12:30

不明だったX線照射によるPD-L1発現上昇のメカニズム

群馬大学は12月20日、放射線照射によるがん細胞のPD-L1発現にDNA損傷とその修復が重要な役割を果たしていることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学大学院医学系研究科の柴田淳史研究講師、重粒子線医学推進機構の佐藤浩央助教ら、東京大学、福島県立医科大学、ハーバード大学の研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」に公開された。

近年、がん治療において、抗PD-1抗体を用いた免疫治療が注目を集めている。しかし、単剤では治療効果が十分ではない場合があるため、X線治療や化学療法剤との併用による治療効果の改善が期待されている。

先行研究より、X線照射と抗PD-1抗体の併用が腫瘍抑制効果を高めることがマウスを用いた実験で示されている。その理由のひとつとして、X線照射によって引き起こされる、がん細胞膜表面上のPD-L1の発現上昇が関与すると考えられている。しかし、そのPD-L1発現上昇のメカニズムはよくわかっていなかった。

ATM/ATR/Chk1の活性化でがん細胞のPD-L1発現が上昇

研究グループは、がん細胞へのX線照射およびDNA損傷系抗がん剤処理によって生じる、DNA損傷シグナルを伝えるタンパク質「ATM/ATR/Chk1」の活性化が、がん細胞のPD-L1発現上昇を引き起こすことを明らかにした。これは、Chk1の活性化がタンパク質「STAT1/3」のリン酸化による活性化を促し、その下流でIRF1が発現し、IRF1ががん細胞に存在するPD-L1遺伝子上流のDNA転写開始領域と結合することで、PD-L1を発現させるという分子機構を発見したことになるという。


画像はリリースより

また、X線照射後のPD-L1の発現に関わる他のタンパク質を見つけるため、DNA二本鎖切断(DSB)修復関連因子を検索した。その結果、DNA修復で中心的な役割を担うタンパク質「Ku70/80」または「」をノックダウンした細胞で、同様にChk1の活性化を介し、PD-L1の発現を誘導する作用が高まることが判明。このうち、Ku80をノックダウンした細胞におけるPD-L1の発現増強が、EXO1/BLMを介したChk1活性化によって成り立っていることを明らかになったという。また、BRCA2をノックダウンした細胞では、PARP阻害剤処理によって顕著にPD-L1発現が増強することもわかったという。

さらにDSBが、PD-L1に関わるSTAT1/3-IRF1経路を活性化させることで、PD-L1の発現上昇を誘発することも判明。これらの結果から、DSB発生後のDNA損傷シグナルががん細胞膜表面上のPD-L1発現上昇を誘発し、免疫反応制御に関わることが示唆されたという。

今回の研究成果より、どのDNA修復遺伝子が失活すると、がん細胞内のPD-L1発現が変動するかが予測可能になるため、今後のX線治療と免疫治療の併用を行う上での治療前効果予測精度向上に貢献できる。また、放射線誘発PD-L1発現に関わるDNA修復因子を阻害することで、これまで抗PD-1抗体治療の効果が十分でなかった患者に対しても、治療効果を高めることが可能となるかもしれない、と研究グループは述べている。

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