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てんかん手術で発作消失後、約20%で心因性発作が新たに出現-東北大

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2025年10月23日 AM09:10

術後の環境変化による心理的負荷増、具体的な問題点や身体症状は?

東北大学は10月16日、てんかん外科手術で発作消失した患者の中に、心因性非てんかん発作(PNES)が新たに出現する場合があることを発見したと発表した。この研究は、同大病院脳神経外科の大沢伸一郎講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry」に掲載されている。


画像はリリースより
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てんかん外科手術は、成功すれば直後から発作消失をもたらし、患者の生活の質向上や人生設計を大きく変える可能性がある。一方で、それまで発作のために自身の能力を発揮できなかった患者が、発作消失をきっかけに、急に本来の社会的活動を求められることも考えられる。そのような「急に世間の荒波にこぎ出すことになった」患者は、心理的負荷が増加することが予想されるものの、具体的な問題点や身体症状に表れうるのか、これまで明らかではなかった。

心理的負荷により生じるPNES、術後患者99人を対象に心理的負荷を可視化

研究グループは、心理的負荷によって、てんかん発作に似た症状を呈するPNESについて、てんかん外科手術後の患者を対象に心理的負荷を可視化することを試みた。この研究は、発作消失という一見喜ばしいことの影に隠れてしまいがちな、患者の心理的葛藤を題材として、発作に限らず病気について回る心理的、社会的負荷を広く知ってもらうきっかけになるものである。

今回の研究では、東北大学病院てんかんセンターでてんかん焦点切除術(脳外科手術)を行った99例の患者について、術後全例の経過をフォローし術後PNESの発症率を明らかにした。また術後PNESを発症した患者について、症状の特徴や術前の心理社会的評価が発症リスクを予測できるか解析した。診断、治療にはてんかん専門医、精神科医、公認心理師などの多職種連携チームが参加した。

術後に発作消失患者の約20%でPNES出現、従来の発症率より高

その結果、てんかん外科手術の後に発作消失した患者の中に、新たなPNESが出現することを発見した。これは手術を受けた患者の約20%に上り、従来考えられてきた発症率(3~4%程度)より遙かに高い数値で、生活の質改善を目標とする治療として無視できないものである。

術後PNES発症患者の8割超で予定外受診、不要な抗発作薬増量も

術後PNESを発症した患者の特徴を解析すると、予定外の医療利用が多い(86%)、結果的に不要な抗発作薬が増量されることが多い(81%)ことがわかった。術後PNESは発症前に、術後に元々のてんかん発作がない”発作消失期間”を認めた人は多い(95.2%)にも拘わらず、てんかん専門医の外来でも明確な”新規発作”と認識されることが少なく(57.1%のみ)、結果的に不必要な治療や不利益の原因となっていた。この事実は、PNESがいかに日常診療で他の症状と判別しづらいかを如実に表している。PNESは、明確な器質的異常が証明されないのに症状が続く機能性神経障害(FND)の一部とされており、てんかん領域のみならず他の脳神経疾患、身体疾患の領域にも広く存在するとされている。しかし、器質的原因がないことを証明することは困難であることも相まって、真の発症率は不透明なままとなっている。

発作への強い不安と既婚状況、術後PNES発症リスクに関連

また、術後PNESの患者には、術前の心理社会的評価で発作不安が強いこと(オッズ比1.1倍)、既婚者が多いこと(オッズ比16.1倍)が明らかになった。これは発作に対する不安が周囲の刺激に対する心理的過敏性の反映や、社会的責任による「早く周りの人と同じ生活に戻らなくてはならない」と感じる心理的ストレスが発症に関与するメカニズムを推定させる。これは心理学的な理論Burden of Normality(正常の負荷)と合致する。

これらの結果は、患者本人がてんかん発作によって長期間制限された状況から急に解放された時、強い心理的ストレスに曝されることを意味しており、さらに適切な対処ができれば多くの方が症状改善することを証明している。つまり主治医のみならず心理師や精神科医など、サポート可能な体制があれば、患者本人の早い回復のみならず、結果的に不要な医療コストを削減できる可能性を示している。患者の悩みは、発作があるというだけではなく、病気であるというレッテルを貼られていること(スティグマ)や、長期に活動を制限されてきた社会的環境とも密接に関係しているという傍証でもある。

不要な医療コストの増大・社会的不利益改善に期待

同研究結果は、てんかんや脳領域で不明瞭だったPNESという病態に対して新知見を与えたのみならず、「状況が改善したように見える患者に、心理的負荷が増大して新たな症状を呈する」という、一見矛盾した病態を説明する具体例を示し、心理学的な重要テーマを提示している。同研究結果を応用して医療チームや患者の周囲の人に共有することで、手術や大きな治療の前後に生じる患者本人のストレスや不安を軽減し、結果的に不要な医療コストの増大や社会的不利益が改善することが期待される。また、誰もが内在する心理的負荷とその対処について、一つの病態を通して考え議論が行われることで、より良いストレスとの付き合い方を構築していけるようになることが望まれる、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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