DMDマウス、昼間のみの観察では本来の病態を把握できていない可能性
東京大学は10月1日、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のモデルマウス「DBA/2N-mdxマウス」を対象に、24時間連続で自発行動を撮影・解析する新手法を開発し、ヒト患者に特徴的な運動障害を、自然な飼育環境下のマウスにおいても客観的に可視化することに成功したと発表した。この研究は同大大学院農学生命科学研究科の木田美聖研究員、小林唯研究員、港高志研究員、岸拓也研究員、福田将大研究員、大森啓介研究員、村田幸久准教授、実中研トランスレーショナルリサーチ部門試験事業センターの沼野琢旬室長、病理解析センターの保田昌彦副センター長、事業開発部/新規事業開発室の酒井誠之介氏、山本大地副部門長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Pharmacological Sciences」に掲載されている。

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DMDは進行性の遺伝性疾患で、患者は歩行障害や筋力低下により日常生活が大きく制限される。従来の動物実験では、筋力測定や短時間の観察を用いて行動評価が行われてきたが、これらの方法は「昼間の限られた時間」に偏っており、マウスの活動期である夜間や長時間に及ぶ症状の変化を捉えることは困難であった。
DMDモデルマウスを24時間連続撮影・解析、活動期に顕著な運動異常を示す
今回の研究では、マウスの行動を、昼夜を通じて連続撮影し、画像解析によって自動的に定量化するシステムSHIGUSAを導入した。その結果、DBA/2N-mdxマウスは暗期(活動期)において運動距離の著しい減少、活動時間の短縮、歩行速度の低下、直線歩行の減少、体幹伸展(歩行時の体の伸び)の縮小といった異常を示すことが明らかになった。
ヒト患者病態に近い表現型を検出、病理組織学的解析でも類似の病態変化を確認
今回の成果は、ヒトのDMD患者が日常生活で経験する疲労や運動障害に対応する表現型であり、従来の実験系では把握できなかった重要な知見である。さらに、病理組織学的解析でも骨格筋の壊死や脂肪浸潤といったヒト病態に類似する変化が確認された。
特に重要なのは、24時間連続解析により、マウスの暗期(活動的な時間帯)に顕著な運動低下が検出された点である。これは、患者が日常生活や就寝時に感じる疲労や運動障害に対応する可能性が高く、マウスで得られた行動表現型を人へ外挿できる大きな手がかりとなる。
昼夜通じた非侵襲モニタリング、治療薬開発の新たなスタンダードに
今回開発された行動解析システムにより、従来の観察方法では見逃されていた臨床的に重要な症状をマウスで捉えることに成功した。「今回確立した「昼夜を通じた行動モニタリング+画像解析」というアプローチは、動物福祉に配慮した非侵襲的かつ高再現性の手法であり、今後の新規治療薬の前臨床評価における新しいスタンダードとなることが期待される」と研究グループは述べている。
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・東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 研究成果


