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肝切除後の胆汁漏、色素ICGによる術中評価で発生率が有意に低下-鳥取大ほか

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2025年07月01日 AM09:30

肝切除術中の胆汁漏、検出方法に課題

鳥取大学は6月6日、全身投与したインドシアニングリーン(ICG)と近赤外線(NIR)カメラを用いた肝切除中の胆汁漏を検出・修復する新たな術中評価法が肉眼では見逃されていた微細な胆汁漏を術中に高感度で検出・修復できること、さらに術後の胆汁漏の発生を有意に抑制できることを実証したと発表した。この研究は、同大医学部消化器・小児外科学分野の花木武彦氏(現:医学教育学分野講師)、藤原義之教授、統計数理研究所野間久史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMJ Open」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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肝切除術は肝がんや転移性肝腫瘍などに対する根治的治療として広く行われているが、術後合併症の一つである胆汁漏(bile leakage)が臨床上の大きな課題となっている。胆汁漏によって、腹腔内感染や肝不全といった重篤な合併症が引き起こされ、入院期間の延長や再手術・再ドレナージなどの二次的介入を必要とすることがある。

従来、術中の胆汁漏の検出は肉眼観察に頼っており、細かな漏出は見逃されることが少なくなかった。また、胆道内へ造影剤や色素を注入する既存の漏出検査法は、侵襲的で胆管損傷や感染症リスクを伴うという課題もあった。

ICG+NIR蛍光カメラによる胆汁漏検出法、前向き臨床試験による検証は未実施

近年、全身投与したICGを肝から胆汁へ自然排泄させ、NIR蛍光カメラで胆汁漏を非侵襲的に可視化する方法が注目されている。しかし、これまでの報告は主に単施設の後ろ向き研究や症例報告にとどまっており、臨床試験によって、その臨床的有用性を前向きに検証したエビデンスは存在していなかった。

そこで今回の研究では、術後胆汁漏予防の新たなスタンダードの確立を目指し、ICGを用いた術中胆汁漏検出・修復法の有効性を前向き臨床試験で評価した。

術中ICG評価の有効性を従来法と比較

同研究では、従来の標準治療を受けたヒストリカルコントロール群(44人)と、術中にICG評価と対処を実施した介入群(40人)を比較した。介入群では、肝切除手術中に10mgのICGを静脈投与し、肝離断面から胆汁中に排出されたICGをNIRカメラで可視化することで、漏出部位を精密に特定。確認された漏出部は術中に縫合などで修復を行った。

主要評価項目は、術後3日目(POD3)のドレーン中総ビリルビン濃度を用いた。これは胆汁漏の国際診断基準に採用される評価指標である。さらに、手術手技や背景因子の違いによるバイアスを最小限に抑えるために、逆確率重み付け(IPTW)解析を用いた統計処理を実施した。

ICG群では胆汁漏の発生率が大幅低下

その結果、ICG群ではドレーン中の総ビリルビン濃度が有意に低下し(-1.105mg/dL、P<0.001)、胆汁漏の発生率(Grade A以上)も大幅に低下した(ICG群5.0% vs 対照群27.3%、P=0.002)。また、Grade B以上の臨床的に問題となる胆汁漏は、ICG群では0件だった。

胆汁漏の検出数は約11倍に増加、肉眼観察では困難な漏出源も特定

さらに、ICG蛍光観察により検出された胆汁漏の数は、肉眼観察の約11倍に上った。従来法では見逃されがちな「Nagano分類のType D」の胆汁漏など、総胆管との連続性がない漏出源も特定できた。

副作用・有害事象は見られず、入院期間も有意に短縮

ICGは従来から肝機能検査に用いられている安全性の高い薬剤であり、今回の試験でも副作用は報告されなかった。加えて、ICG群では入院期間の短縮(平均6.1日 vs 17.6日、P=0.020)や、Clavien-Dindo分類におけるGrade II以上の術後合併症の減少も確認された。

ICGによる評価法の効果と安全性を実証した重要な知見

以上の結果から、ICGを用いた術中評価は、胆汁漏という重要な術後合併症の早期発見と予防につながり、患者の回復促進・医療資源の効率化にも貢献する可能性が示された。今回の研究は、今後の肝臓外科治療におけるICG活用の新たなスタンダードを示唆する世界で初めての重要な知見となった。

胆汁漏はそれほど頻繁に生じる術後合併症ではないため、その予防効果をランダム化比較試験(RCT)で統計的に検証するには、非常に大規模な(数百例以上の)患者集団が必要となるという現実的な問題があった。同研究は、RCTでは評価が困難な臨床的課題に対して、ヒストリカルコントロールと統計的因果推論の枠組みによる高度なデータサイエンスの手法を用いて、新たなエビデンスの創出を目指した点にも、大きな臨床的・方法論的意義がある。

「以前にもICGの蛍光特性を活用した手術支援の有用性について報告してきたが、今回の臨床試験で、その知見をより科学的・統計的に裏付けることができた。特に、重篤化のリスクが高い胆汁漏に対して、低侵襲で安全な方法を世界に先駆けて提示できたことは、今後の肝切除術の質を高める上で重要な意義がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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