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発話した自分の声を聞くことが、強い「行為主体感」をもたらすと判明-東大ほか

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2022年07月07日 AM10:35

発話によって「行為主体感」を感じるのかは不明だった

東京大学は7月5日、自分らしい声を発話行為の結果として聞くことが、強い主体感を得るために不可欠であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院人文社会系研究科の大畑龍特任研究員(研究当時)、ATR認知機構研究所の浅井智久主任研究員、お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所の今泉修助教、東京大学大学院人文社会系研究科の今水寛教授(兼務先:東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター、ATR認知機構研究所)の研究グループによるもの。研究成果は、「Psychological Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

何かの動作を行ったときに「この行為を引き起こしている主体は自分である」という行為主体感を得ることができる。この感覚は普段は意識しないものだが、精神疾患などにより行為主体感が失われると、自分で行っているにもかかわらず、他人に操られているような経験をする場合がある。統合失調症の代表的な症状のひとつである幻聴も、自身の発話行為に主体感を感じ取れなくなることが、原因のひとつだと言われている。

しかし、これまではボタン押しやハンドジェスチャーなど、手指の運動課題を通じて行為主体感を調べる研究がほとんどであったため、発話によっていかに行為主体感を感じるのか、その詳細は不明だった。

発話と音声の関係を調べる心理実験で、発話の行為主体感の特徴を解明

そこで、研究グループは今回、発話とその結果として聞こえてくる音声の関係を調べる2つの心理実験を通して、発話の行為主体感の特徴を明らかにした。

1つ目の実験では、行為主体感がより強く感じられる状況において、行為とその結果の時間間隔がより短く感じられるというインテンショナルバインディング効果を利用して主体感を測定した。29人の実験参加者(19~25歳:平均年齢21.7歳、男性15人、女性14人)は、「あ」「い」「う」「え」「お」のいずれかの文字をマイクに向かって発話し、0.2秒、0.4秒、0.6秒のいずれかの遅れを挟んで、発話した音声をヘッドフォンを通して聞いた。参加者が聞く音声には3つの条件があり、高さを半音7つ上げた音声(高音条件:ヘリウムガスを吸ったくらい高くなるように加工した声)、加工のないそのままの音声(通常条件)、高さを半音7つ下げた音声(低音条件:太く低くなるように加工した声)のいずれかを聞いた。その後、発話と音声との間の「時間間隔」がどれくらいの長さに感じられたかを報告した。

その結果、自分らしさが感じられない高音・低音条件と比較して、加工のないそのままの音声を聞く通常条件で、参加者はより短い時間間隔を報告した。この結果は、参加者が通常条件で、より強い行為主体感を感じたことを示すという。

「声の自分らしさ」が行為主体感の有無を判断する際に重要、手指の運動とは異なる結果に

2つ目の実験では、1つ目の実験にも参加した28人の参加者(19~25歳: 平均年齢21.7歳、男性15人、女性13人)に、発話時に感じられた行為主体感を直接的に評価してもらった。参加者は、「あ」「い」「う」「え」「お」のいずれかの文字をマイクに向かって発話し、0.05秒、0.20秒、0.35秒、0.5秒、0.65秒のいずれかの遅れを挟んで、発話した音声を聞いた。1つ目の実験と同じように、参加者が聞く音声には、高音、通常、低音の3つの条件があった。その後、「どのくらい聞こえてきた音声を自分が引き起こしたと感じたか」を9段階で評価してもらった(1=全く自分が引き起こしたとは感じない~9=完全に自分が引き起こしたと感じる)。

その結果、通常条件において参加者は「自分が引き起こした」と強く感じられたことがわかった。また、この通常条件では、発話と音声との時間遅れが長くなっても、行為主体感の評価にほとんど影響がなかった。これは、「声の自分らしさ」が行為主体感の有無を判断する際に重要な要素となっていることを示しており、行為と結果の時間遅れが長くなるほど主体感を感じにくくなるという手指の運動を用いた先行研究で示唆されていた結果とは異なる、発話の主体感に特有の結果だった。

発話の結果として、他人の声ではなく、自分自身の声が聞こえるのは、ごく当たり前の状況だ。今回の結果は、その当たり前の状況だからこそ、ヒトは強い行為主体感を感じられるということを意味している(別の実験を通して、高音・低音条件の音声では、自分の声とは判断できないことも確認)。また、手指の運動では行為と結果の関係性に僅かなずれがあると行為主体感が低下するが、発話では多少ずれがあったとしても、その発話を行ったのは自分だと判断できるほど「声の自分らしさには認知的な影響力が強い」こともうかがえた。

幻聴のメカニズム解明や次世代コミュニケーション発展への貢献に期待

幻聴に苦しむ患者の多くが「周りに誰もいないのに他人の声が聞こえる」という症状を訴える。今回の研究成果は、発話の結果として聞こえてくる音声が自分のものでなければ、行為主体感はあまり感じられないということを示している。今後、いかに自分の声が行為主体感を高めることにつながるのかを、神経科学の知見も取り入れながら詳しく調べることで、幻聴のメカニズム解明への貢献が期待できる。

また、コロナ禍の影響もあり、近年はバーチャル空間での新しいコミュニケーションの在り方が注目を集めている。バーチャル空間上では、ユーザはアバターを使い、他者と会話を行うことが一般的だ。その際、仮の姿であるアバターを介した会話が、必ずしも主体性の感じられるものになるとは限らない。今回の研究成果に基づいて、アバターの見た目から想像できるような音声が聞こえる環境を構築するなど、バーチャル空間上での主体性の伴った会話を促進するためのさまざまな可能性が考えられる。バーチャルリアリティ技術を取り入れながら、さらなる研究を進めることで、次世代コミュニケーションの発展につながると考えている、と研究グループは述べている。

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