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骨髄異形成症候群、MSCの骨芽細胞分化障害を介した造血不全機序を解明-FBRIほか

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2022年05月16日 AM11:15

MDS細胞が骨髄中で優位性を獲得するメカニズムは不明

(FBRI)は5月13日、(MDS)由来エクソソームによる骨髄微小環境を介した造血不全の新規メカニズムを解明したと発表した。この研究は、当機構先端医療研究センター血液・腫瘍研究部の林康貴特任研究員(日本学術振興会特別研究員SPD)、井上大地血液・腫瘍研究部長、北村俊雄センター長(研究当時:東京大学医科学研究所(細胞療法分野)教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

赤血球や白血球、血小板といった成熟血球細胞は全て造血組織の幹細胞である造血幹細胞(Hematopoietic Stem Cell, HSC)より産生される。造血幹細胞は骨髄のさまざまな細胞からなる微小環境(造血幹細胞ニッチ)の支持を受け、自己複製や成熟血球細胞への分化が制御されると考えられている。骨髄間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell, MSC)は造血幹細胞ニッチを構成する細胞の一つであり、骨芽細胞や軟骨細胞、脂肪細胞等さまざまな細胞への分化能を有し、微小環境を構成する細胞を供給している。

骨髄異形成症候群(Myelodysplastic Syndromes, MDS)は遺伝子異常をもつHSCに起因する悪性疾患であり、無効造血による血球減少をきたし、高率に急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia, AML)に形質転換することが知られている。MDSにおいてHSCだけでなくMSCの機能異常が知られており、またマウスモデルを用いた研究からMSCの機能異常は造血器疾患様の病態を引き起こすことが報告されてきた。しかしながら、AMLと異なり増殖が遅くアポトーシスの亢進を特徴とするMDS細胞が、経時的に骨髄中で優位性を獲得するメカニズムはわかっていなかった。

そこで、研究グループはエクソソームを始めとする細胞外小胞(Extracellular Vesicle, EV)に着眼し、MSCの異常とそれを引き起こす原因を明らかにし、正常造血を抑制して相対的にMDS細胞が優位になるメカニズムの解明を目指した。

MDSマウスで骨芽細胞系列クラスターの著しい減少、一方でMSCの数や多分化能は維持

MDSモデルマウスを用いた解析、MDS細胞と正常造血幹細胞との共培養実験の結果から、MDSにおける正常造血の抑制は骨髄環境を介した間接的なものと考えられた。そこで病理標本とマイクロCTによる解析を行ったところ、MDSモデルマウスでは顕著な骨量の減少を確認した。血中の骨代謝マーカーの計測値、骨形成計測データが顕著な造骨抑制を示す一方、破骨細胞の活性亢進を認めず、骨形成の低下がその原因と考えられた。こうした骨代謝の異常はヒトMDS患者検体においても認められた。

骨形成低下の原因としてMSCから骨芽細胞への分化プログラムを評価するため、単一細胞レベルでのRNAシークエンスを実施した。MSCはマーカー遺伝子の発現や分化系列とその段階によって骨芽細胞系列や線維芽細胞等のクラスターに分類され、MDSマウスでは骨芽細胞系列クラスターの著しい減少を認めた。その一方でMSCの数や多分化能は維持されており、MDS環境下でMSCの分化障害は起こるものの、MSC本来の能力は保たれていると考えられた。

MSCの骨芽細胞への分化が造血支持能の回復に不可欠

次に、骨芽細胞系列への分化障害を起こしたMSCが造血抑制を起こしていることを確認するため、正常あるいはMDS由来MSCと正常造血幹前駆細胞(Hematopoietic Stem Progenitor Cell, HSPC) の共培養を行った。2週間共培養後に正常HSPCのコロニー形成能を調べた結果、MDS群では正常HSPCのコロニー形成能が障害され、造血支持能の低下が確認された。この造血抑制は、MSCに骨芽細胞への分化誘導を促進することで完全にレスキューされ、MSCの骨芽細胞への分化が造血支持能の回復に不可欠であることが明らかとなった。

MDS細胞由来エクソソーム中のmiRNAが造血不全に主要な役割

続いてMDS細胞とMSCにおける細胞間コミュニケーションの手段としてエクソソームに着目し、その影響を骨芽細胞系列分化と造血支持能の観点から解析を行った。MDS由来のエクソソームは骨芽細胞分化の関連遺伝子の発現誘導を抑制し、また造血支持能を低下させることがわかった。

エクソソームはmiRNA等の機能分子を輸送する媒体として知られている。そこでMDS由来エクソソームがMSCに異常を起こすメカニズムを詳細に解析するため、中に包含されるmiRNAの網羅的発現解析を行った。興味深いことに、2種類のMDSモデルマウスと、38検体のMDS患者由来エクソソームにおいて高発現するmiRNA群は多くのシグナルパスウェイを共通して標的としており、その中にはMSCの生存・増殖や骨芽細胞分化に関わるものを多く含んでいた。これらの結果から、MDS細胞から放出されるエクソソームに含まれるmiRNAが、MSCに異常を生じ造血不全を引き起こす上で主要な役割を担っていると考えられた。

エクソソームを制御し骨髄環境を改善する新規治療法開発へ

今回の研究により、MDSではMDS細胞が産生するエクソソームがMSCの骨芽細胞分化障害を介して造血不全を惹起することが明らかになった。この知見は骨髄環境の改善により造血抑制の解除につながることを示している。MDSは骨髄移植以外に根治療法のない難治疾患である。しかし罹患者の多くは高齢者であるため移植療法の対象となりにくく、造血不全による輸血依存に陥りやすいという問題がある。そのため骨髄微小環境の改善で正常造血を回復させることができれば、輸血依存の解消につながると期待される。「MDS細胞より分泌されるエクソソームを抑制できれば、MDSの治療に大きく貢献することが期待される。エクソソームを制御し骨髄環境を改善する新規治療法の開発に取り組んでいく」と、研究グループは述べている。

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