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再灌流開始時に抗体投与で脳梗塞体積を著明に減少、従来法を上回る効果に期待-順大ら

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2019年10月07日 PM12:00

アポトーシス誘導因子「」が虚血再灌流障害と関連

順天堂大学は10月3日、脳梗塞急性期の治療時に引き起こされる再灌流障害を予防する治療法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科乳酸菌生体機能研究講座の世古義規客員教授、奥村康特任教授、研究基盤センター生体分子研究室の藤村務客員准教授、村山季美枝客員准教授と、横浜市立大学大学院医学研究科脳神経外科学教室の岸本真雄大学院生、末永潤講師、山本哲哉教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

外界からの生体への細胞障害の多くは、虚血再灌流障害をはじめとする酸化ストレスによって起こり、・成人病・がんなどの原因になっていると考えられているが、その機序は不明だった。研究グループは低酸素負荷後再酸素化刺激をした細胞から(翻訳後修飾を受けた)eIF5Aが分泌され、細胞のアポトーシスを誘導していることを明らかにし、この新規アポトーシス誘導因子(分泌型eIF5A)をOxidative-stress Responsive Apoptosis-Inducing Protein (ORAIP)と命名した。これまでの研究によりORAIPは生体の酸化ストレス応答全般に共通の因子である可能性が高く、従来考えられてきた活性酸素より大きな役割を果たしていることがわかってきたことから、酸化ストレスによる細胞障害の診断・治療の有望な標的となると考えられるという。

虚血再灌流直後に抗ORAIP中和抗体投与でコントロール群より約55%脳梗塞体積を減少

研究では、培養細胞を用いた実験で、脳虚血再灌流による神経細胞のアポトーシスが、主としてORAIPによって媒介されているか否かを検討した。ラットの培養神経細胞に低酸素再酸素化刺激を行うと細胞上にORAIPの明らかな発現が見られ、神経細胞のアポトーシスが誘導された。ORAIPの中和抗体は、この低酸素再酸素化刺激によるアポトーシスを有意に抑制した。また、ORAIPを培養神経細胞に投与すると、神経細胞のアポトーシスが誘導されたことから、神経細胞のアポトーシス誘導にORAIPの関与が大きいことが示された。

次に、脳虚血再灌流の動物モデルでORAIPの役割を確認するため、安定した脳虚血領域が得られることが知られている自然発症高血圧ラットを用いて中大脳動脈・総頚動脈の同時遮断による脳虚血再灌流実験を行った。脳虚血再灌流後、髄液中のORAIP濃度は再灌流30分後をピークとして有意な上昇を認めた。そこで虚血48時間前から、脳室内に持続ポンプを留置して抗ORAIP中和抗体を投与すると、用量依存的に脳梗塞(虚血再灌流障害)領域の著明な減少を確認した(6µg/hで73時間投与、コントロール群より約72%の減少)。さらに、抗ORAIP中和抗体を虚血再灌流直後に投与した場合でも脳梗塞領域の著明な減少が認められたという(288µg/hで30分間投与、コントロール群より約55%の減少)。

今回の研究により、従来考えられてきた活性酸素ではなくORAIPが酸化ストレスによるアポトーシス誘導に重要な働きをしていることが確認された。抗ORAIP抗体が今後製薬化、臨床治験が行われ、実臨床で使用されることで、脳梗塞患者の予後改善に多大に寄与する可能性が示唆される。「ORAIPは真核細胞で構造が保存され酸化ストレス・老化等の生命現象に本質的な役割を果たすと考えられることから、動脈硬化や老化への役割を解析することにより抗動脈硬化・抗老化に向けての可能性を探る」と、研究グループは述べている。

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