南北に広がる日本、全国一律の基準で十分に対応できているか検証
東京大学は10月16日、全国47都道府県の熱中症死亡データを分析し、都道府県ごとに暑さ指数(WBGT)と熱中症死亡数との関連を検討した結果、地域や時期に応じて基準を設定することでより熱中症死亡を防げる可能性が示されたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科のPhung Vera Ling Hui(プン ヴェラリンフイ)助教、橋爪真弘教授らの研究グループと、国立環境研究所、長崎大学などの共同研究によるもの。研究成果は、「Environment & Health」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
近年、記録的な高温が頻繁に観測され、熱中症による健康被害が深刻化している。政府は2021年に「熱中症警戒アラート」を全国で導入し、暑さ指数(WBGT)が33以上と予測される場合に発表している。ただし、日本は南北に長く、気候条件や暑さへの備えは地域によって異なるため、効果的な運用には地域特性を踏まえた工夫が求められる。
今回の研究では、こうした地域性を踏まえ、政府が掲げる「2030年までに熱中症による死亡を半減する」という中期目標の達成に資する基準を検討した。さらに、月別、年齢層別、性別によって効果的な基準値がどのように異なるかについても検討した。
都道府県ごとにWBGTと熱中症死亡数の関連を推定
今回の研究では、全国47都道府県のデータをもとに、Distributed Lag Non-linear Modelを用いたケースクロスオーバー解析を実施し、都道府県ごとにWBGTと熱中症死亡数の関連を推定した。24~35℃の各WBGT値における暑熱曝露に伴う熱中症死亡数を算出し、高いWBGT値から順に積算した。その上で、あるWBGT値でアラートを発表した場合に、その値以上で発生した死亡はすべて回避可能と仮定し、これを「回避可能死亡数」と定義した。さらに、この回避可能死亡数が全体の50%に達するWBGT値を「新たな基準」とした。
現行のWGT33からWBGT31への変更で熱中症死半減の可能性
解析の結果、全国一律の現行基準(WBGT33)では回避可能死亡数は全体の約2~3%にとどまる一方、基準をWBGT31に設定した場合には、死亡を半分程度減らせる可能性があることが示唆された。
季節や地域に合わせた基準設定の有効性も明らかに
また、7~8月の回避可能死亡数は5~6月や9月に比べて多く、時期によって基準を変えることの有効性も明らかになった。
さらに、夏季の月別、年齢別、性別、地域別の解析では以下の傾向が認められた。
・5~6月や9月は24~30と低めの基準が有効である。
・65歳以上の高齢者では64歳以下よりも低めの基準が有効である。
・性別では大きな差は認めない。
・北海道・東北地方では他の地域より低めの基準が有効である。
気候変動を見据え、柔軟な基準設定と見直しを提言
これらの結果から、熱中症警戒アラートの基準は地域や時期に応じて柔軟に設定することで、より効果的に熱中症死亡の抑制につながる可能性が示された。また、気候変動の進行を踏まえ、今後も基準を適宜見直していく必要性も明らかになった。
「本研究では、新たな基準以上で熱中症警戒アラートが発表されれば、熱中症死亡が100%回避可能と仮定した。今後はこの実現に向けた方策の検討を行うことも望まれる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京大学 プレスリリース


