生薬「五味子」に含まれるシサンドリンA、心血管系への作用は未検証だった
東邦大学は6月6日、生薬「五味子(ゴミシ、Schisandra chinensis)」に含まれる天然成分「シサンドリンA(Schisandrin A)」に、冠動脈の異常収縮(血管れん縮)を抑える作用があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学部薬理学教室の洪強昊地氏(博士課程1年)、吉岡健人講師、小原圭将准教授、田中芳夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Pharmacological Sciences」に掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
シサンドリンAは、古くから滋養強壮薬として知られる生薬「五味子」に含まれる主要な天然成分で、これまでに抗酸化作用、肝機能保護、抗炎症作用などの生理活性が報告されている。しかし、心血管系への直接的な作用、特に冠動脈の異常収縮(スパスム)に対する影響についてはこれまで明らかにされていなかった。
血管収縮物質による冠動脈収縮の抑制をブタで確認、既存薬と同等またはそれ以上の効果
今回の研究では、シサンドリンAが心筋を取り巻く冠動脈にどのような作用を及ぼすかを明らかにするため、ヒトに類似した構造と生理機能を持つブタの冠動脈を用いた薬理学的評価を行った。その結果、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン、トロンボキサンA2(正確にはその安定誘導体であるU46619)、プロスタグランジンF2α、エンドセリン-1といった血管れん縮に関与する生理活性物質(およびその誘導体)を用いて誘発された冠動脈の収縮に対し、シサンドリンAが濃度依存的に抑制することが確認された。
また、シサンドリンAの冠動脈収縮抑制効果は、現在狭心症の治療に広く用いられているカルシウム拮抗薬「ジルチアゼム」と同等、あるいはそれ以上の効果を示した。特に、アセチルコリンによる収縮に対しては、ジルチアゼムよりも大きな最大抑制効果が見られた。これらの効果は、細胞膜に存在するL型カルシウムチャネル(L-type Ca2+ channel:LCC)を介したカルシウム流入を阻害することに起因しており、同時にムスカリンM3受容体への遮断作用(抗コリン作用、Anticholinergic effect)も一部関与していることが明らかになった。
KCl刺激による平滑筋由来細胞のカルシウム濃度上昇を有意に抑制
さらに、平滑筋由来のA7r5細胞を用いた蛍光測定実験では、高濃度カリウム(KCl)刺激によって引き起こされる細胞内カルシウム濃度の上昇をシサンドリンAが有意に抑制することが確認され、LCCの機能抑制が主な作用機序であることが支持された。これらの結果から、シサンドリンAは冠動脈収縮の共通経路であるLCCを抑制することにより、さまざまな刺激による異常収縮を抑える可能性を持つことが示された。
シサンドリンA、冠動脈スパスム治療の効果を示唆する初の実験的証拠
今回の研究は、シサンドリンAが、狭心症や心筋梗塞の発症に関与する冠動脈スパスムの予防・治療に応用可能であることを示唆する初めての実験的証拠となる。五味子を含む製剤は現在、経口剤や注射剤としても臨床使用されており、適切な製剤や投与経路を選択することで、シサンドリンAが研究で用いた有効濃度に達することが可能と考えられる。「今後は、動物モデルやヒトを対象とした検証を通じて、安全性・有効性・適用条件をさらに明確にしていく必要がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東邦大学 プレスリリース