効率的な活用求められる医療・介護資源、単一障害に焦点を当てた介入に課題
筑波大学は5月8日、介護保険サービスを利用し始めた65歳以上の新規要介護認定者を、心身機能のパターンによって5つの集団に分類し、各集団の特徴や予後を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系/ヘルスサービス開発研究センターの田宮菜奈子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Medical Directors Association」に掲載されている。

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日本においては高齢化の急速な進展に伴って介護が必要な状態となる高齢者数も増加しており、2040年頃にピークを迎えると推計されている。増大する要介護高齢者のニーズに対応するため、医療や介護に関する資源の効率的かつ効果的な活用が課題となっている。
要介護高齢者は複数の障害を抱えていることが多く、その組み合わせは多様だ。このため、単一の障害に焦点を当てた介入には限界があることが指摘されている。適切な介入を検討するには要介護高齢者の心身機能を含む複合的な状態像を理解することが必要となるが、これまでは疾患の特徴を検討した研究しかなかった。そこで、今回の研究では、介護保険サービスを利用し始めた高齢者(65歳以上の新規要介護認定者)を、心身機能などのパターンによって分類し、それぞれの集団の特徴や予後との関連について分析した。
新規要介護認定を受けた高齢者3,841人対象、介護認定調査74項目からAI解析実施
今回の研究では、匿名化された茨城県つくば市の介護認定調査データを基に、2014年10月から2019年3月までに新規要介護認定された65歳以上の人のうち、医療保険レセプトおよび介護保険レセプトデータと連結可能だった3,841人(年齢の中央値83歳[四分位範囲77~87]、女性59.3%)を解析対象とした。
まず、介護認定調査データに含まれる基本調査74項目(身体機能・起居動作13項目、生活機能12項目、社会生活への適応6項目、認知機能9項目、精神・行動障害15項目、必要な医療処置12項目)を基に、教師なし機械学習の一つである潜在クラス分析を実施した。
軽度から重度まで5つの機能サブタイプに分類成功、別データでも再現性確認
その結果、i.軽度身体タイプ(1,258人)、ii.軽度認知タイプ(946人)、iii.中等度身体タイプ(767人)、iv.中等度複合タイプ(597人)、v.重度複合タイプ(273人)の5つの分類(機能サブタイプ)が同定された。また、千葉県柏市の同様のデータ(2012年4月から2014年3月まで、2,911人)を用いた同様の解析でも同じ分類が再現された。
タイプ別に予後を統計分析、重度複合は死亡リスク2.5倍など判明
さらに、これらの機能サブタイプと予後の関係について、死亡は多変量Cox回帰分析、入院と介護施設入所は多変量競合リスクCox回帰分析、介護度悪化は多変量ロジスティック回帰分析によって評価した。軽度身体タイプを基準とすると、重度複合タイプは死亡(ハザード比2.56[95%信頼区間2.02~3.24])と入院(1.23[1.02~1.48])および介護施設入所(5.91[4.57~7.63])のリスクが高いことが示された。また、中等度身体タイプは入院(1.32[1.16~1.49])のリスクが高いこと、中等度複合タイプは介護度悪化(調整オッズ比1.67[1.26~2.22])のリスクが高いことが示された。一方、軽度認知タイプは、軽度身体タイプを基準とすると、死亡(0.72[0.58~0.89])および入院(0.74[0.65~0.83])のリスクが低いことが明らかになった。
要介護認定者のサブタイプ分類と予後の関連、医療介護サービス選択への活用に期待
今回の研究により、65歳以上の新規要介護認定者が5つの機能サブタイプに分類され、そのサブタイプ別に死亡や入院、介護施設入所、介護度悪化といった予後が異なることが示された。今回の研究成果は介護の現場などにおいて、本人、家族、ケアマネージャー、主治医などの関係者の皆様が、利用する医療介護サービスの選択や将来に向けた準備について話し合う際に役立てられることが期待される。
ただし、今回の解析は日本の2つの市のデータのみを用いて実施しているため、地域によって要介護高齢者の特徴が異なる可能性があるという研究の限界に留意する必要がある。「今後は、日本の他の地域でも同様の解析を実施するとともに、機能サブタイプごとに最適な医療・介護サービスの在り方についての研究を進め、効果を検証することが望まれる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース