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RSウイルス感染症、病態解析や薬効評価にiPS細胞由来オルガノイドが有用-CiRA

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2025年05月02日 AM09:00

十分な病態解明に向け、ヒト呼吸器オルガノイドがRSV感染症モデルとして使えるか検証

京都大学は4月24日、ヒトiPS細胞より分化誘導した呼吸器オルガノイドを用いて、(RSV)感染時における宿主応答を解析した結果を発表した。この研究は、同大iPS細胞研究所()増殖分化機構研究部門の橋本里菜研究員(研究当時、現・東京科学大学総合研究院難治疾患研究所)、渡邉幸夫研究員(研究当時)、高山和雄講師(研究当時、現・東京科学大学同研究所教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Life Science Alliance」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

RSVは、主に乳幼児に感染し、重症化すると呼吸困難を伴う下気道炎を呈する呼吸器感染症。患者が多いにも関わらず、RSV感染病態に対する理解はいまだ限定的で、抗ウイルス薬の開発は十分ではない。その原因として、RSV感染症モデルの確立が不十分であることがあげられる。そこで今回の研究では、呼吸器を構成する呼吸器上皮細胞や免疫細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞を含むヒト呼吸器オルガノイドをRSV感染症モデルとして使用できないか検証した。

RSVはヒト呼吸器オルガノイドに効率よく感染、上皮層破壊・コラーゲン蓄積・免疫応答を観察

ヒト呼吸器オルガノイドにRSVを感染させ、4日間培養した。培養上清中のウイルス力価は、経時的に増加した。また、感染4日後のRSウイルスmRNAおよびRSウイルス融合タンパク質(Fタンパク質)の高い発現が確認でき、電子顕微鏡によってRSV粒子が観察された。蛍光染色画像では、アセチル化αチューブリン陽性の線毛細胞からなる上皮層が、RSV感染により破壊される様子が確認できた。以上の結果から、RSVはヒト呼吸器オルガノイドに効率よく感染することが示唆された。

次に、ヒト呼吸器オルガノイドにおけるRSV感染時の宿主応答の解析を行った。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色およびシリウスレッド染色の結果から、RSVを感染させたヒト呼吸器オルガノイドにおいて呼吸器上皮層が破壊され、コラーゲンが蓄積する様子が確認できた。

続いて、RSV感染ヒト呼吸器オルガノイドを用いて、RNAシーケンス解析を実施。その結果、RSV感染により有意な発現上昇した遺伝子が381個、発現低下した遺伝子が120個確認できた。381個の発現上昇遺伝子を用いたエンリッチメント解析より、インターフェロン(IFN)-γ応答を含む自然免疫応答や炎症応答に関与する遺伝子群の発現が上昇していることが示唆された。また、培養上清中に含まれるサイトカイン量を測定したところ、IFN-γやインターロイキン(IL)-8を含む多くのサイトカイン量の増加が確認できた。以上の結果から、RSVを感染させたヒト呼吸器オルガノイドにおいて、呼吸器上皮層の破壊、コラーゲンの蓄積、自然免疫応答や炎症応答が観察できることがわかった。

ヒト呼吸器オルガノイドを用いてRSVの治療・予防薬評価が可能と示唆

最後に、ヒトRSVに対するモノクローナル抗体4種(ニルセビマブ、スプタブマブ、クレスロビマブ、パリビズマブ)およびリバビリンの評価を行った。パリビズマブは1998年に、ニルセビマブは2023年にRSウイルス感染症の予防薬として承認されたモノクローナル抗体であり、その有効性は臨床的にも認められている。一方でリバビリンはRSV感染症の治療薬として用いられることもあったが、有効性が十分ではないこと、対象患者や投与法が限定的であることなど課題があった。

これらモノクローナル抗体およびリバビリンを作用させたヒト呼吸器オルガノイドにRSVを感染させ、4日後のウイルス力価を測定した。その結果、モノクローナル抗体は作用濃度依存的にウイルス力価が減少する一方で、リバビリンは高濃度作用群においてもウイルス力価が十分に低下しなかった。

また、ニルセビマブおよびパリビズマブを作用させたヒト呼吸器オルガノイドのシングルセルRNAシーケンス解析を行った。その結果、I型肺胞上皮細胞やII型肺胞上皮細胞、線毛細胞、分泌細胞におけるRSV核タンパク質(Nタンパク質)の発現量が、ニルセビマブおよびパリビズマブ作用によって有意に低下していることがわかった。

さらに、II型肺胞上皮細胞や線毛細胞、分泌細胞における自然免疫応答関連遺伝子(ISG、IFI6)はニルセビマブおよびパリビズマブ作用によって低下していた。以上の結果から、ヒト呼吸器オルガノイドは、RSVの治療薬および予防薬の評価が可能であることが示唆された。

RSV感染症病態解析のためのモデルとして期待

今回の研究では、RSVがヒト呼吸器オルガノイドにおいて効率よく感染することを示し、呼吸器上皮層の破壊、コラーゲンの蓄積、自然免疫および炎症反応の評価が可能なことを確認した。また、ヒト呼吸器オルガノイドを用いて、RSV感染症予防薬として使用されるモノクローナル抗体の効果は確認された一方で、RSV感染症治療薬として用いられるリバビリンの効果はほとんど確認されなかった。ヒト呼吸器オルガノイドは、RSV感染症病態解析や治療薬および予防薬の開発のための重要なモデルとなることが期待される、と研究グループは述べている。

 

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