膵がんの自然史は約15~20年、時間は十分あるのに早期発見が困難
大阪大学は2月20日、胃カメラの際に追加検査として、十二指腸乳頭部を洗浄して回収液中のKRAS遺伝子変異を検出するリキッドバイオプシーにより、高い診断精度で早期膵がんを診断できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の谷内田真一教授(がんゲノム情報学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Surgery」に掲載されている。

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膵がんは難治性がん(5年生存率:約13%)として知られ、日本でも患者数の増加が社会問題となっている。難治性の理由として、早期発見が難しいため診断時にすでに他の臓器やリンパ節に転移があり、手術適応とならないことが挙げられる。一方、膵がんを早期に発見し手術を行い、手術後に抗がん剤治療を行った患者さんの5年生存率は約53%となっている。つまり膵がんにおいて、早期発見・早期治療(手術)が最も有効な治療法である。
ほぼ全ての膵がんにおいて、最初の遺伝子異常はKRAS遺伝子の変異である。したがって、全ての膵がん細胞はKRAS遺伝子変異を有しており、「KRAS遺伝子変異という最高のバイオマーカー」があることが、他のがんと異なる。しかし、このKRAS遺伝子変異は血液中(血液を用いたリキッドバイオプシー)には、全身に転移があるような膵がん患者でしか検出できず、別のアプローチからの検査法の開発が期待されている。研究グループはこれまでに、膵がんの自然史は約15年から20年と実は長いということを発見しており、早期発見できるタイムフレームは十分にあることを踏まえて、有効な診断法の開発を試みた。
胃カメラ検査に加え、十二指腸乳頭部の洗浄液でKRAS遺伝子変異量測定
研究グループは、全国の10施設と協力して、健康者(75人)と初診時手術適応膵がん患者(89人)を対象に、通常の胃カメラ検査の際に合成ヒトセクレチンを静脈投与し、十二指腸乳頭部を専用のカテーテルで洗浄し、それを回収した。通常の胃カメラ検査に1〜2分の追加でできる簡易で身体的に負担の少ない検査である。回収液からDNAを抽出し、PCR法でKRAS遺伝子の変異量を測定した。
手術適応膵がん患者でKRAS遺伝子変異が有意に多い、AUCは0.912
その結果、手術適応膵がん患者(手術した早期膵がんだった患者)と健康者(健常者として登録され検査の結果、膵臓に病気のなかった人)を比較すると、統計学的に有意にKRAS遺伝子変異が、手術適応膵がん患者に非常に多いことがわかった。さらに、特異度は100%、感度は80.9%で健康者と手術適応膵がん患者を区別することができた。検査法の目安となるAUCは0.912で極めて精度の高い検査法であることもわかった。
CEAとCA19-9では偽陽性、精度はKRASを下回る
これまでの膵がんの腫瘍マーカー(CEAやCA19-9)では手術適応膵がんを発見することは困難とされ、米国では膵がんのスクリーニング検査として推奨されていない。偽陽性があり、その場合は身体的な負担が大きい検査が必要となるためだ。研究でもCEAとCA19-9では偽陽性があり、感度や特異度はKRASを調べる検査を下回ることが明らかになった。
膵がんハイリスク者対象のスクリーニング検査として期待
「これまでに膵がんを早期診断可能なスクリーニング法はなかった。開発した検査は、腫瘍マーカー(CEAやCA19-9)のような間接的なバイオマーカーではなく、膵がん細胞由来の遺伝子変異をとらえる直接的なバイオマーカーで検出が可能だ。日本では2年に1回の胃がん検診、特に胃カメラが推奨されている。その際に膵がんハイリスク者を対象に、スクリーニング検査として本検査を追加することで、膵がんの早期発見・早期治療が期待される。本検査は膵がん克服に向けた大きな一歩と言える」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU