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「光る手術用ガーゼ」を新たに開発、術中の蛍光マーカーとしても使用可-科学大ほか

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2025年03月03日 AM09:00

術後のガーゼ遺残問題を解消するには?

東京科学大学は2月18日、医療現場で広く使用されている近赤外発光色素であるインドシアニングリーン(ICG)を用いた体内手術用の人体組織を透過して光るガーゼを開発したと発表した。この研究は、同大物質理工学院応用化学系の安藤慎治教授、昭和大学医学部外科学講座消化器一般外科学部門の青木武士主任教授、田代良彦講師、京都工芸繊維大学繊維学系の安永秀計准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Langenbeck’s Archives of Surgery」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

体内手術用ガーゼは、外科手術において止血や汚染された術野を整える目的だけでなく、体内組織の圧排や手術の進行方向の誘導にも使われ、その用途は多岐に及ぶ。一方、手術中に体内で見失い、ガーゼ遺残を生じることがしばしば問題となっており、ガーゼカウントやX線造影糸を包含したガーゼを用いて遺残の有無を確認することが多い。しかし、これらは外科医や看護師にとって肉体的・精神的負担となり、また患者がX線被曝を受けるという問題があった。

既報告のICG浸漬・乾燥させた綿ガーゼ、ICG漏出と再付着の懸念

(ICG)は、ヒトで唯一使用が認められている近赤外域蛍光色素で、生体毒性が低く、波長780nmの光で励起することにより「生体の窓」と呼ばれる820nmに蛍光発光を示す。この蛍光は人体組織を約8~12mm透過することができるため、深部組織の観察やin vivoイメージングに適している。さらに、ICGは血漿タンパク質と強く結合して血管内に留まり、肝臓で速やかに代謝されるため、外科手術で広く利用されている。

現在の外科手術は、腹腔鏡手術やロボット手術が主流であり、それらにおいては触覚ではなく視覚情報がより重要となっているため、内視鏡およびロボット手術システムにはICGの励起/発光波長に合わせた蛍光イメージングシステム(FIS)が標準装備されつつある。そこで、もし体内手術用ガーゼをICGにより染色し、近赤外発光するようにできれば、手術後の遺残を防ぐだけでなく、手術中にその存在と位置を実時間(リアルタイム)で確認することができるため、手術の進行をガイド(ナビゲーション)する目的にも利用可能だ。ICGで染色された発光ガーゼはこれまでに報告例があるものの、綿ガーゼをICG水溶液に浸漬して乾燥させたもののため、体内でのICG漏出と組織への再付着が強く懸念されていた。

ICG染色した綿ガーゼをオートクレーブで蒸熱処理、ICGが定着して堅牢性が向上

研究グループは、2023年に三大学()による「医工連携プロジェクト」を立ち上げ、発光強度が高く、かつ生体内で色素が漏洩・再付着しない「光る手術用ガーゼ」の開発に着手した。

まず、綿ガーゼをICG水溶液中、加熱条件で60分間、振とうした後、脱水・洗浄・乾燥した試料を調製し、近赤外蛍光の有無を検討した。その結果、発光を示したものの、ICGがガーゼに十分に定着しておらず、擬似的な体液中で顕著な漏洩が見られた。また、ガーゼはICGが形成する凝集体由来の薄緑色を呈色していた。そこで、上記で染色したガーゼをオートクレーブで132℃、8分間、蒸熱処理したところ、発光強度はわずかに低下したものの薄緑色が脱色され、ICGがよく定着して堅牢性が向上することを見出した。

そこで、未染色の綿ガーゼをICG水溶液に浸漬し、そのままオートクレーブ内で昇温して、132℃、15分間染色したガーゼを調製したところ、染色の処理時間が短いにもかかわらず、発光強度の顕著な増大と、高い堅牢性を示した。この発光強度の増強は、オートクレーブ中の高温・高圧環境下で、ICGの凝集体形成が抑制され、かつICG分子が綿ガーゼのセルロース繊維と強固に結合したことによると考えられた。オートクレーブは、病院等における医療器具の滅菌処理に広く利用されていることから、ICGガーゼを術前に蒸熱処理することも可能だ。

標準的なFISで観察可、2時間体内に留置後でもICG漏出や再付着による発光を認めず

「光る手術用ガーゼ」の実用化を目指して、オートクレーブ中で染色したガーゼを、厚さ約10mmの胃壁、小腸や大腸の腸間膜を隔てて配置したところ、標準的なる蛍光イメージングシステム(製品名:SPY-PHIシステム)により十分な蛍光強度で観察が可能だった。また、腹腔鏡およびロボット支援下の大腸手術において内側アプローチ(結腸間膜を内側から外側に剥離する方法)から外側アプローチに移行する際の手術ガイドとしても有用であることもわかった。

さらに、体内での紛失を想定して小腸間膜内にガーゼを配置したところ、間膜を透過した近赤外蛍光によりガーゼの存在を容易に同定でき、かつ30分~2時間の留置後もガーゼと接触した組織の観察においてICGの漏出や再付着による発光を認めなかった。

「光る手術用ガーゼ」は、術後のガーゼ遺残防止に役立つだけでなく、術中にその存在位置をリアルタイム)で確認することができるため、手術の進行をガイドする「蛍光マーカー」としても使用することができ、現在の主流である腹腔鏡手術やロボット手術にとって、極めて有用な医療デバイスになり得える。特筆すべき点として、製造工程においてヒトへの使用が認められている素材のみを使用していることから、人体だけでなく、他の生物組織や地球環境にもやさしい技術と考えられる。

腹腔鏡・ロボット支援手術14症例で試験的な臨床応用

昭和大学倫理委員会の認可を得て、すでに試験的な臨床応用を始めている。蛍光ガーゼを使用した腹腔鏡・ロボット支援手術14症例のうち7症例において、白色光下よりもFIS撮像下でより迅速にガーゼが検出されたことから、手術中に解剖部位を特定するための正確なマーカーとなり得ることがわかっている。また、全ての手術でガーゼからのICG漏洩は観察されていない。

「今後は、臨床医師の意見を聴取しながら、製造工程を改良し、発光強度と堅牢性、長期安定性、製造コストなどの改善を進めていきたい。また、他の病院などにも提供範囲を拡大していきたい。加えて、この技術は、手術用スポンジや透明チューブなどさまざまな医療用器具にも適用可能なことから、綿ガーゼ以外の医療器具に適用範囲を広げていきたい」と、研究グループは述べている。

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