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培養小腸モデルでマイクロナノプラスチックの人体への取り込みを検証-東大

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2024年09月18日 AM09:10

人体へのMNP取り込みメカニズム・影響は不明だった

東京大学は9月10日、生体を模した高度な培養小腸モデルを用いてマイクロナノプラスチック()の人体取り込み評価を実施し、その結果を発表した。この研究は、同大大学院工学系研究科の酒井康行教授、チェヒュンジン特任助教、金子昌平大学院生らによる研究グループによるもの。研究成果は、「Nanomaterials」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

2022年の世界のプラスチック生産量は約4億トンで毎年増加している。劣化しにくくリサイクルが難しいため、MNPによる環境汚染が懸念されている。MNPは、環境中を経由して人体内にも取り込まれているが、その取り込みメカニズムは明確ではなく、さらに、その後の人体への影響も明らかになっていない。

東京大学では日本財団の支援を受けて「FSI海洋プラスチック研究」プロジェクト(代表:東京大学大気海洋研究所・伊藤進一教授)を推進しており、その中で研究グループは、ヒト培養細胞からなる臓器モデルと数理シミュレーションの融合による次世代の人体影響予想手法の開発を分担している。

取り込みメカニズムがMNPの粒子のサイズで異なることを培養小腸モデルで再現

今回の研究では、MNPの人体内への吸収経路の正確な理解を目指し、人体と同じく複数の細胞からなる高度なヒト培養小腸モデルを作成し、さまざまなサイズのMNPの透過や影響を系統的に検討した。

まず、3種の細胞-吸収上皮細胞、粘液を分泌する杯細胞、免疫による生体防御のためにバクテリアを認識して、あえて取り込むM細胞を膜型培養器上に共培養した。ここに50nm、100nm、500nmのMNPを曝露した。すると、比較的小さな50nmと100nmのMNPは、全ての細胞に共通なエンドサイトーシスにより良く取り込まれた。

MNPは粒子の大きさによりエンドサイトーシスやM細胞経由など多様な機構で取り込まれる

一方、500nmと比較的大きな粒子の取り込みには、M細胞の存在が必要であることが示された。つまり、生体はMNPの大きさを認識し、細胞間隙を介した非特異的な取り込み、栄養素の取り込みのための共通メカニズムであるエンドサイトーシス、生体防御のためのバクテリア認識・取り込みまで、多様なメカニズムにて人体への取り込みを行うことが、培養モデルを用いた実験で確認できたこととなる。また、杯細胞による粘液は、どの粒径のMNPでも取り込みを大きく抑制していることも、併せて確認できた。

以上の結果から、取り込まれたMNPはおおむね小腸の血管に移行し肝臓を経由して全身に回るが、バクテリアと同様の大きさの粒子については、M細胞によるバクテリア認識取り込みを介してまずはリンパ管に入り、その後に血液へと移行すると考えられる。このように、MNPの大きさに応じて取り込み後の体内動態が異なるという知見は、その後の人体影響を予測する上で、極めて重要な知見と言える。

人体での実計測・培養組織モデル・数理シミュレーションの融合による予測性向上に期待

人体にはバクテリアなどを貪食し、活性酸素を使用して分解する機能を有した好中球や単球やマクロファージが多量に存在する。しかし、この作用ではMNPは分解されない。MNPは人体からの排泄も難しいため、人体内へ徐々に蓄積されると考えられていることから、今後、長期に渡る蓄積量の緩慢な増加というシナリオに焦点を当てた人体影響予測に関する研究を推進する必要がある。

「このような長期の人体影響予測は現代の科学をもってしても非常に困難だが、今後人体での実計測結果や本研究のような高度な培養組織モデル、適切な数理シミュレーションの融合により、その予測性を向上できると期待している」と、研究グループは述べている。

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