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変形性膝関節症の治療標的となりうる核内受容体を同定-広島大

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2024年01月10日 AM09:20

QOLを低下させる変形性膝関節症、既存薬では効果不十分

広島大学は12月26日、変形性膝関節症を発症したモデルマウスと膝関節の軟骨細胞を用いて、核内受容体の一つであるREV-ERBを刺激すると、軟骨細胞に生じた炎症反応を抑制することで痛みが緩和されることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の森岡徳光教授、中村庸輝助教、中島一恵助教、橋爪宥樹大学院生(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Immunopharmacology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

変形性膝関節症は、関節軟骨の炎症による破壊と減少を特徴とする慢性の関節障害である。加齢や遺伝、関節構造の異常、筋力低下といった関節の脆弱性を高める要因と、肥満やスポーツなどで生じた関節の物理的な障害、関節の酷使といった関節に直接負荷を加える要因が合わさって発症する。特に高齢女性で発症しやすく、日本では60歳以上の女性で約半数、80歳以上では約80%以上が罹患し、患者数は2500万人以上と推定されている。症状として痛みや腫れ、関節の不具合(可動域制限)や変形が生じ、特に慢性的な関節の痛みは、日常動作に支障を来すことから患者のQOLを著しく低下させる。これらの痛みにはロキソニンのような非ステロイド性抗炎症薬などが処方されるが、効果が十分ではないことも多く、また長期間の使用により副作用が生じるリスクも増加する。よって、新たな治療薬・治療法の確立が望まれている。

核内受容体REV-ERBへの刺激、膝関節軟骨の炎症を軽減できるか

以前より研究グループは、原因が異なるさまざまな慢性痛のモデルマウスを用いて、治療標的を探索する研究を続けてきた。その中で、核内受容体の一つであるREV-ERBに注目し、この受容体を薬物で刺激すると、さまざまな慢性痛モデルマウスで鎮痛効果を示すことを世界に先駆けて明らかにしてきた。一方で、変形膝関節症でのREV-ERBの役割は明らかになっておらず、痛みを緩和する効果についても不明だった。

変形性膝関節症では、膝関節の軟骨が炎症により破壊され減少する。関節軟骨は細胞成分(軟骨細胞)と細胞外基質(軟骨基質:主に水やコラーゲンなど)からできており、変形性膝関節症の痛みでは特に軟骨細胞に炎症などの異常が生じることが原因の一つと考えられている。よって軟骨細胞に生じる炎症を軽減することが、痛みを和らげる有効な手段となる可能性が予想される。そこで今回の研究では、変形性膝関節症を発症したマウスを用いて、REV-ERB刺激薬による軟骨細胞の炎症と痛みの関わりについて調べた。

疾患マウス膝関節内へのREV-ERB刺激薬投与、痛み/軟骨破壊/炎症性物質を抑制

モノヨード酢酸(MIA)を膝関節内に投与することで変形性膝関節症を発症したマウスにREV-ERB刺激薬のSR9009を膝関節内に注射投与したところ、生じた痛みが緩和された。また、REV-ERB刺激薬を処置した変形性膝関節症モデルマウスの膝関節の軟骨組織の厚さを測定した結果、大腿骨の軟骨の破壊が一部抑制されている傾向が明らかになった。

さらに膝関節由来の軟骨細胞を用いて、人為的に炎症を生じさせるとさまざまな炎症性物質(炎症性サイトカインや軟骨基質分解酵素など)の発現が増加したが、これらの反応はREV-ERB刺激薬により抑制されることを明らかにした。

変形性膝関節症に対する治療薬の新たな標的として期待

今回、研究グループは、変形性膝関節症モデルマウスにおいて、REV-ERB刺激薬が痛みを緩和すること、また培養軟骨細胞において、REV-ERB刺激薬が炎症反応を抑制し、痛み誘発物質や軟骨破壊物質を減少させることを見出した。この研究結果から、REV-ERBが変形性膝関節症の痛みに対する治療薬の新たなターゲットとなることが期待される。

「今後は、REV-ERBによる鎮痛効果のメカニズムの詳細をさらに明らかにするとともに、高力価かつ安定性に優れたREV-ERBs刺激薬の開発を進め、臨床応用についても研究を進めていく」と、研究グループは述べている。

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