医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > テクノロジー > 子宮肉腫の術前診断、AIで自動化するシステムを開発-東大ほか

子宮肉腫の術前診断、AIで自動化するシステムを開発-東大ほか

読了時間:約 2分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年12月26日 AM09:10

」と良性腫瘍「」の判別に課題

東京大学は12月20日、診断精度を向上させるため医師が行っているAIが学習するための画像選別作業を自動化することに成功し、新たに「子宮肉腫自動診断AI」を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻の曾根献文准教授、豊原佑典大学院生、大須賀穣教授、同大医学部附属病院放射線科の黒川遼助教、サイオステクノロジー株式会社の野田勝彦氏、吉田要氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Gynecologic Oncology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

子宮肉腫は、予後の悪い希少がんだ。治療は子宮全摘手術を行う必要があるが、将来妊娠の希望がある場合には子宮を温存して子宮腫瘍のみを摘出する方法や、薬物治療などで保存的に経過観察する方法など治療方法が多岐にわたる。このように、術前診断は、患者の将来を考慮した治療方法を検討するうえで非常に重要となる。

また、子宮肉腫は良性腫瘍の子宮筋腫と似た画像的特徴を持つことがある。子宮筋腫と子宮肉腫の鑑別は、MRIでの画像診断が有用だ。変性という腫瘍内部の構造変化を伴う子宮筋腫では、子宮肉腫に類似した特徴を呈する場合があり、正確な術前診断が必要となる。そのため、子宮肉腫であっても子宮筋腫と診断されるオカルト腫瘍と呼ばれるケースがあり、臨床上の問題点となっている。

子宮肉腫鑑別AIの課題、画像選別は医師・未知の症例データへの評価なし

こうした背景から、研究グループは、AIの中でも深層学習という手法に着目し、世界に先駆けて子宮肉腫の術前MRI画像診断システム「子宮肉腫鑑別AI(Sarcoma Evaluator)」を開発した。しかし、この診断システムではAIが診断するための画像選別作業を医師が行う必要があった。また、希少がんという性質から症例数が少なく、交差検証にも使用していない未知の症例データに対しては評価されなかったことが課題だった。そこで、この問題点を改善し、画像選別作業を自動化した新たなAIシステムの開発を目指した。

AI改良のため、子宮肉腫と子宮筋腫の術前MRI画像で深層学習・評価

今回の研究では、「子宮肉腫鑑別AI」を改良する目的で、当時と同じデータセット(、公立昭和病院の3施設の子宮肉腫と子宮筋腫を罹患した患者、子宮肉腫:63例、子宮筋腫:200例)を学習用データセットとして用いた。深層学習と評価判定は、MobileNetV2というネットワークモデルを用いて行った。

未知の症例データに対しても学習データと同等の診断精度

まず、この学習用データセットで「腫瘍判別AI(Tumor Image Filter)」という腫瘍がMRI画像に含まれるか否かを判別するAIを開発。腫瘍判別AIで腫瘍が含まれると判定された画像を抽出した際の正診率は92.68%だった。続いて、腫瘍判別AIに既存の子宮肉腫鑑別AIを組み合わせることにより、医師がMRI画像を選別することなく、自動化された形で子宮肉腫を診断できるシステム「子宮肉腫自動診断AI(AutoDiag-)」を開発した。学習・検証用データセットを用いた交差検証では、子宮肉腫自動診断AIの正診率は89.32%だった。

さらに、東京大学医学部附属病院を受診した子宮肉腫と子宮筋腫に罹患した患者の交差検証に用いていない未知の症例データ(子宮肉腫:8例、子宮筋腫:24例)を追加の検証用データセットとして新たに用意し評価を行った。その結果、子宮肉腫自動診断AIの正診率は92.44%だった。同データセットを放射線科専門医が診断した場合の正診率が84.38%だったことから、子宮肉腫自動診断AIは、新しい症例データに対しても高い診断精度が得られることが示唆された。

術前に子宮筋腫と誤診のオカルト腫瘍も、子宮肉腫と診断

検証用データセットの子宮肉腫の症例には、術前に子宮筋腫と診断されたオカルト腫瘍が含まれていた。このオカルト腫瘍に対しても子宮肉腫自動診断AIは子宮肉腫と診断しており、オカルト腫瘍の誤診断の予防にもつながることが期待できる結果となった。

医師の画像選別なし、そのままAI診断システム評価へ

今回の研究では、これまでに開発した深層学習による子宮肉腫の術前MRI画像診断システムを改良し、社会実装を実現するための自動化システムを開発した。これにより、臨床現場で得られた画像を医師が選別する必要がなくなったことで、全ての画像をそのままAI診断システムで評価することができるようになり社会実装への道が拓けたとしている。今後は、オカルト腫瘍の誤診断予防を含め、実際の臨床現場における診断補助としての役割などが期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 テクノロジー

  • 幼児の睡眠改善アドバイスアプリ「ねんねナビ」にAI追加搭載、有用性を確認-阪大ほか
  • ステージ4肺がん、電カルデータから高精度に予後予測するAIを構築-近大ほか
  • ペット型ロボットは、無菌室での長期療養患者への心理面支援に「有効」-東京医科大
  • 介護保険の質疑応答、生成AIチャットボットのシステムを開発-岡山大
  • 視覚障害者を支援、AI活用の写真撮影システム「VisPhoto」開発-大阪公立大ほか