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産後うつを簡易予測、手書き対応の診断モデルを開発-富山大

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2025年01月23日 AM09:30

従来の産後うつ予測モデル、対面利用の実用性に課題

富山大学は1月15日、「子どもの健康と環境に関する全国調査()」のデータを用い、持続型の産後うつを簡易に予測する意思決定ツリーモデルを開発したと発表した。この研究は、同大学術研究部医学系公衆衛生学講座の松村健太講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

産後うつは一般的な精神疾患であり、発症率は10~15%とされている。その大半は自然に回復するが、一部のケースでは慢性化し、母子の健康や子どもの発達に重大な影響を及ぼすことがある。特に、6か月を超える持続型の産後うつは公共健康上の課題とされている。

近年、機械学習を活用した産後うつ予測モデルの開発が進んでいる。しかし、多くのモデルは高度な技術や電子カルテへの依存が強く、対面場面における利用の実用性に課題があった。

持続型の産後うつを簡易・実用的に予測できるモデルを開発、エコチル調査データで

研究グループは今回、上記の課題を解決するため、妊娠中に得られるデータのみを用いて、産後6か月を超える持続型の産後うつを簡易で実用的に予測可能な意思決定ツリーモデルを開発した。

エコチル調査に登録された8万4,091人の母親を対象とし、妊娠中および産後1か月、6か月時点に行われたアンケートおよび医療記録からデータを収集した。機械学習の一種である決定木を使用し、意思決定ツリー型の予測モデルを構築した。ランダムに振り分けた5万8,635人の母親のデータを用いて学習を実行した上で、残りの2万5,456人の母親のデータを用いて検証した。主要指標としては、6か月を超える持続型の産後うつを、エジンバラ産後うつ病質問票で産後1、6か月の両時点で9点以上と定義。モデルの性能はROC曲線下面積、感度、特異度などを用いて評価した。

意思決定ツリーモデル、感度76.0%特異度76.8%で心理的要因などの重要な予測要因も抽出

今回、最大3つの質問で分類可能な意思決定ツリーを作成した。84の候補変数から、機械学習により抽出された10項目に基づき予測を行った。予測精度が高く、曲線下面積(AUC)は0.84を達成。感度は76.0%と良好で、持続型の産後うつと判定された母親の76.0%を、妊娠中から「陽性」と正しく予測した。特異度も76.8%と良好で、持続型の産後うつでないと判定された母親の76.8%を、妊娠中から「陰性」と正しく予測した。

重要な予測要因として、「自分は価値のない人間だという感じ」や「そわそわしたり落ち着かない感じ」「気分が沈み込んで気が晴れない感じ」などの心理的要因、「感情的サポート」の程度、「うつ病の既往歴」、いくら寝ても「寝不足」のような感じ、が抽出された。

手書き対応・専門知識不要で容易に回答可能、精度向上や適用範囲の拡大を目指す

同診断モデルは手書きでの利用が可能な上、機械学習一般についての専門知識が不要である。実施者だけでなく、母親への負担も少なく、容易に回答可能だ。

今回の研究では、最大深度3、分岐数4、使用質問数10というシンプルながら、曲線下面積(AUC)が0.84、感度76.0%、特異度76.8%と、実用に十分な精度を持つ意思決定ツリーを作成することに成功した。抽出された10変数のうち、産後うつの予測に最も寄与した変数はK6質問票の「無価値感」であった。この結果は、近年の「うつの最も重要な原因は無価値感である」という複数の報告や、「低い自尊心が産後うつの最も強力な予測因子である」という代表的な研究とも一致している。さらに、5万8,635人のデータを用いて学習されたモデルを、2万5,456人のデータを用いて検証することにより、過学習が発生していないことも確認している。一方、同研究の限界としては、持続型の産後うつの評価に自己記入式質問紙を使用している点や、持続型の定義を産後6か月という比較的短い期間に設定していることが挙げられる。

今回開発した意思決定ツリーモデルは、保健センターや産婦人科など、日本国内における母子保健現場での活用が期待される。特別なトレーニングを必要とせず、簡単に実施可能であることが特徴だ。今後は、日本をはじめとする高所得国でさらなる精度検証を行い、簡便さを保ちながら予測精度の向上や適用範囲の拡大を目指すという。また、低・中所得国でも検証を進めることで、医療現場や地域保健での広範な普及が期待される、と研究グループは述べている。

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