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21水酸化酵素欠損症、LRS法による簡便・高精度な遺伝子検査を開発-東京医歯大ほか

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2023年10月16日 PM12:01

出生時に性別が判定しづらい21OHD、早期の発見と医療的介入が重要

東京医科歯科大学は10月13日、ロングリードシークエンス(LRS)法を用い、安価かつ簡便な21水酸化酵素欠損症(21OHD)の遺伝子検査法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野の森尾友宏教授、鹿島田健一准教授、安達恵利子大学院生、かずさDNA研究所ゲノム事業推進部の小原收部長、東京医科歯科大学糖尿病内分泌代謝科、、自治医科大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

先天性副腎過形成症は、コレステロールを基質とし、コルチゾル産生までに必要な過程が先天的に障害されることによって生じる遺伝性疾患である。欠損する酵素の種類に応じて6種あり、そのうち21OHDが全体の大半(90%以上)を占める。日本での頻度は約1万8,000〜1万9,000人に1人であり、指定難病(81)である。

コルチゾルは生命維持に必須のホルモンであり、先天的にコルチゾル不足が生じる21OHDでは、適切な治療がなされない場合、乳児期早期に死亡することもある。またコルチゾル不足を補うために大量に男性ホルモンが副腎より産生されるため、女性では外性器が男性化する。このため、出生児に外性器の形から性別が判定しづらくなり、性別誤認につながる恐れがある。21OHDは、新生児マススクリーニングの対象疾患であり、国内ではほぼ100%の患者が新生児期に発見され、早期より薬物治療(コルチゾルの補充)を含めた医療的介入がなされている。そのため、現在国内では乳幼児期に死亡する患者や、性別を誤って判断される患者はほとんどいない。

新生児スクリーニングで21OHD陽性となっても、正確な確定診断は負担が大きい

一方、新生児スクリーニングで陽性となった新生児のうち実際に21OHDである子どもは一部(10〜40%)であり、正確な確定診断を必要とする。しかし、診断には専門性の高い内分泌学的検査を必要とし、検査は可能な施設が限られる。さらに多量の血液検体を必要とすることがあり、生まれたばかりの赤ちゃんにとって負担となる上、保険診療ではカバーしきれない検査が必要となることもある。

21OHDの原因となるCYP21A2遺伝子の解析、偽遺伝子や構造異常も考慮する必要がある

21OHDは遺伝性の疾患であり、CYP21A2遺伝子を調べることで診断することも可能である。遺伝子検査は少量の血液で可能であり、結果も明確である。さらに遺伝相談にも使用できる利点がある。しかし今日まで、遺伝子検査は限られた研究施設のみで行われ、広く普及していなかった。原因遺伝子であるCYP21A2が、それとそっくりな構造をもち全く機能しない偽遺伝子(CYP21A1P)と隣り合わせに存在するためである。病気の原因となる遺伝子の変化(病的多型)の大半はこの2つの遺伝子間の組換えの結果生じる多型が複雑な構造をもつため、解析が容易ではない。CYP21A2の塩基配列を選択的に調べると同時に、組み換えによる構造異常も調べる必要がある。対象となる遺伝子をPCR法で増幅し、一般的な塩基配列決定法(Sanger法)で調べる従来の方法は、1回に読み取れる塩基配列の長さが短く(1,000bp以下)、CYP21A2遺伝子の全ての多型を見つけることはできない。同様の理由で、ショートリード型の次世代シーケンサーでも解析困難だった。

LRSを用いたCYP21A2遺伝子の解析法を開発、従来法と55人110アレルで完全一致

近年、飛躍的に長い(>10kb)塩基配列を一度に決定できる技術、LRS法が開発された。LRS法は、開発当初より、CYP21A2遺伝子の有力な解析手法として期待されていた。しかし、高額な解析費用、構造異常を想定した複数のPCRを組みわせた煩雑なライブラリ作成作業、LRS法特有の精度の低さ、が原因で広く普及するには至っていなかった。そこで、今回の研究ではLRS法を用いた簡便で臨床応用可能な安価なCYP21A2解析法の開発を目指した。

まず、CYP21A2遺伝子の病的多型の種類とその可能性を鑑み、1組のPCRプライマーによる標的配列増幅、LRS法による解析のライブラリとして用いることで、作業手順を大幅に減らす方法を開発した。LRS法の解析としては、廉価で知られるオックスフォードナノポアテクノロジーズ(ONT)社のMinION(R)システム(Flongleフローセル、R9.4.1)を用いた。懸念される精度の低さは、PCR産物を解析に用いることでリード数を上げて解決した。さらに、検体にバーコードを紐付け1回の測定できる検体数を最大24検体まで増やした。開発した方法の信頼度を、従来最も信頼できる方法であるMLPA法とNested PCR法を組み合わせた解析方法と比較することで検証し、21OHDと診断がついた55人110アレルを対象に解析したところ、全ての結果が双方で一致した。また、これまで21OHDの原因として知られていなかった2つの病的多型を新たに同定した。

新しいDuplexベースコール法、同一塩基が並ぶ単純配列でさらに精度が改善

次に、Duplexベースコール法を用いたONT社MinION(R)システム(Flongleフローセル、R10.4.1)で同様の試験を行ったところ、さらに高い精度での結果が得られた。特に同一塩基が並ぶ単純配列でのバリアント検出では、R9.4.1と比較し、顕著な精度の改善を認めた。

廉価で解析日数も短縮、両親の検体解析は不要

1検体あたりにかかる解析費用は、従来のMLPA法とNested PCR法と比較しても廉価であり、かつ解析にかかる日数も2〜3日から1日と減らすことができた。また従来のMLPA法とNested PCR法では正確な多型を決定する上で両親の検体と合わせて3検体の解析が必要だったが、この方法は本人のみの解析で多型の決定が可能であり、その点を加味すれば実際の費用の抑制はさらに大きくなる。

今回の研究の意義として、「LRS法を用いた高精度、低価格、簡便な遺伝子検査技術を実現した。さらに今後、21OHDの遺伝子解析の診断目的の検体検査応用への道を開いた。今回の方法を応用し、21OHDと同様に偽遺伝子が隣接し、解析困難な遺伝性疾患の廉価かつ簡便な検査法の開発が応用可能となる」と、研究グループは述べている。

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