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早期乳がん、FN関連入院の抑制にペグフィルグラスチムが寄与の可能性-関西医科大

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2023年08月25日 AM11:26

ペグフィルグラスチムなどG-CSFの使用実態は?

関西医科大学は8月1日、早期乳がんの骨髄抑制化学療法によって誘発される重篤な有害事象である発熱性好中球減少症(FN)に関連した入院の抑制に、(PEG-)一次予防投与が一部寄与している可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大附属病院がんセンターの柴田伸弘診療講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Breast Cancer Research and Treatment」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

早期乳がん(EBC)に対する周術期薬物療法は再発率・死亡率を低下させる効果的な治療の一つである。EBCに対する周術期治療はここ十数年で大きく変化しており、現在は乳がんのサブタイプに合わせて行われている。(FN)は骨髄抑制化学療法によって誘発される重篤な有害事象であり、重症例では入院加療が必要となる。発熱性好中球減少症は周術期薬物療法の薬剤投与量の減少や治療の遅れにつながり、治療成績を悪化させる可能性がある。

顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、発熱性好中球減少症の発生率を低下させることが示されており、現在日本ではペグフィルグラスチム(PEG-G-CSF)、フィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチムの4種類のG-CSFが使用可能だ。新規治療の開発によりEBCの治療状況が大きく変化し、2014年に日本でペグフィルグラスチムが上市された後、実際のG-CSFの使用パターンについてはほとんど知られていない。いくつかの周術期治療レジメンに対する発熱性好中球減少症リスクが最近報告されているが、ペグフィルグラスチム上市前後の数年間を含む大規模な報告は行われていない。

3万例以上を対象に、G-CSFの使用やFN発生状況を調査

研究グループは、2010年から2020年までの期間、EBC患者の周術期化学療法のパターン、G-CSFの使用、および発熱性好中球減少症の発生状況を、国内最大級の保険診療データベースであるMedical Data Vision(MDV)を活用し解析した。データベースに乳がん病名を登録された41万6,455例を抽出し、そのうち周術期薬物療法が行われた3万2,597例を解析対象とした。さらに、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、発熱性好中球減少症関連入院(FN関連入院)に関連する因子を探索した。

サブタイプ別のEBC周術期薬物療法のレジメンを解析

詳細な定義を行い、サブタイプ別のEBC周術期薬物療法のレジメンの10年間の推移を解析した。 HER2陽性では、A-Taxane+Trastuzumab療法が急激に減少し、これにPertuzumabを加えたレジメンが大きく増加していたことがわかった。Paclitaxel+Trastuzumab療法、アンスラサイクリンを含まないTaxane+Trastuzumab+Pertuzumab療法、TC+Trastuzumab併用療法もおよそ1割前後あるが、カルボプラチンレジメンはほとんど使用されていなかった。また、HER2陰性においては、FEC-Taxane療法は大きく減少していた一方、AC/EC-Taxane療法、TC療法、そしてDosedense療法で増加がみられた。

さらにHER2陰性をER陽性/陰性に分けて解析を行ったところ、ER陽性HER2陰性ではFEC-Taxane療法が大きく減少し、AC/EC-Taxane療法、TC療法、Dosedense療法の増加がみられた。ER陰性HER2陰性では、FEC-Taxane療法の減少、AC/EC-Taxane療法、Dose-dense療法の増加がみられ、TC療法やAC療法は1割前後の症例で行われていることがわかった。

一次予防投与としてのペグフィルグラスチム、2020年には44.8%まで大きく増加

G-CSFの使用状況の年次推移については、毎日投与G-CSFの使用は2014年から徐々に減少し2020年には16.6%まで低下していた。一方、一次予防投与としてのペグフィルグラスチムが44.8%まで大きく増加していた。ガイドラインで一次予防投与が推奨されたことやDose-denseレジメンの拡大などが増加に寄与していると考えられた。二次予防投与としてのペグフィルグラスチム使用は10%前後で推移していることがわかった。

重症FNで入院する患者数は年々減少

ICD-10と疾患コードによる発熱性好中球減少症の発症割合については、30%前後で大きな変化がみられなかった。一方、重症の発熱性好中球減少症の指標と考えられる、FN関連入院に関しては年々減少傾向(2010年:14.5%、2020年:4.0%)にあることが示された。最近5~6年では強力な周術期治療レジメンが増えているにも関わらず、重症FNで入院する患者数は年々減少していることがわかった。

ペグフィルグラスチム一次予防投与、一部のレジメンや高齢者で入院リスク低下傾向

FN関連入院のリスク因子の解析を行ったところ、FEC療法、DTX+HP療法、TCH療法、TC療法など一部の薬物療法レジメン、65歳以上の高齢者で入院リスクの上昇傾向が、ペグフィルグラスチム一次予防投与で入院リスクの低下傾向が示唆された。

安全性を考慮した診療へのデータ活用に期待

今回の研究により、サブタイプ別のEBC周術期薬物療法のレジメンの10年間の推移、G-CSFの使用実態と発熱性好中球減少症、発熱性好中球減少症関連入院(FN関連入院)の発生割合の推移が明らかとなった。過去数年間で強力な周術期レジメンの使用が増加しているにもかかわらず、発熱性好中球減少症関連入院は継続的に減少(2010年:14.5%→2020年:4.0%)し、ペグフィルグラスチム一次予防投与を行った患者ではFN関連入院のリスクは低いことが示唆された。

「これらの結果から、過去5~6年間のFN関連入院の抑制にペグフィルグラスチム一次予防投与が一部寄与している可能性が示唆された。周術期薬物療法を受ける乳がん患者に対する治療効果や安全性を考える上で参考になるデータとして、診療に活用されることが期待される」と、研究グループは述べている。

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